サッカー人生は「8割以上が逆境」の富樫敬真が、混迷マリノスを救う (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

 しかし富樫の最大の長所は、アスリートとしての万能性よりも、性格的な不屈さにあるのではないか。

「自分は8割以上が逆境」

 そう語る富樫は、トッププロにたどり着いたのが奇跡に思えるようなキャリアを過ごしてきた。

 小学校時代は得点を量産。県選抜に選ばれ、横浜FMの下部組織から声がかかった。しかし精鋭がそろった横浜FMでは、その自信を打ち砕かれた。技術的に突出した選手のボール回しに、目がまわった。まったく太刀打ちできない。やがて、人数合わせのサイドバックを命じられるようになった。

「(横浜FMのジュニアユースには)自分は『点は取れるけど、速いだけ』みたいな感じで入ったので。サッカーが嫌いになりそうでしたね。マリノスには入れたけど、ずっと補欠だったから、それが恥ずかしくて、周りにも言えないし」

 富樫はそう言って、長い睫毛(まつげ)を伏せる。

 当然、ユースには昇格できなかった。クラブをドロップアウトして高校へ進学。そこでもサッカーは続けたが、特記すべき経歴はない。大学でも関東2部リーグだった。

 しかし、サッカーをやめようと思ったことはない。

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