森﨑浩司とのかけがえのない思い出。1年前に聞いた「引退」の二文字 (5ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

「タイミングよくメンバーにも入れるようになって、もう一度、自分を奮い立たせることができるかなって思ったんですけど、やっぱり試合に向かって行く準備の段階からきついなって思ったんですよね。自分のなかでベストを尽くすことが難しいなって思ったんです」

 同年代のFW佐藤寿人やキャプテンのMF青山敏弘には直接、引退することを伝えたというが、兄である和幸には照れくさくて、きちんと話をすることができなかった。ずっと身近にいて、誰よりも心境を理解してくれているだけに、ふたりの間に言葉はいらなかったのかもしれないが......。

 だからこそ、最後のスピーチではきちんと、兄への想いを伝えたかったのだろう。

「僕はカズがいたから、今日までプロサッカー選手としてプレーできたと思っています。カズの姿勢や背中を見て、自分も追いつき、追い越そうと競い合ってきたからこそ、ここまで続けることができたと思っています。でも、振り返ってみると、正直、お前には全然追いつけなかったと思っているよ。俺にとって、昔も今も、最高の選手は変わらず森﨑和幸だと思っているよ」

 ホーム最終戦当日、ホテルを出る直前、浩司は和幸にこう言葉をかけられていた。

「なんとなくだけどさ、お前、今日の試合でゴールを決めるような気がするんだよね」

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