森﨑浩司とのかけがえのない思い出。1年前に聞いた「引退」の二文字 (3ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 双子の兄・和幸が翌日に大一番を控えていた裏で、弟の浩司は自分のキャリアが終わりに近づきつつあることを覚悟し始めていた。光と影――。あまりに対照的な状況に、複雑な感情が交錯したことを覚えている。

 浩司本人も引退スピーチで、「2度のJ2降格、そして3度のJ1優勝と、苦しいことやうれしいこともたくさんありました」と語ったように、そのキャリアは栄光と苦難に満ちあふれていた。育成年代においては、日本代表に選ばれ、2004年にはアテネオリンピックにも出場した。だが、その後は体調不良(オーバートレーニング症候群)に悩まされ、練習はおろか日常生活すらままならなくなったことは、一度や二度ではない。

 体調不良に見舞われた理由は、自分自身が思い描く理想と、実際のピッチにおけるプレーとのギャップが生じることがきっかけだった。いつだったか、こんなことを話していた。

「サッカーを楽しむのって実は難しい。勝ちたいという思いが強くなれば強くなるほど、楽しいではなく苦しくなる。楽しむことと勝ちたいという気持ちはイコールじゃない。最終的にベストを尽くそうという考え方になれたのは最近ですかね」

 その苦しさを誰よりも理解していたのが、子どものときから今日まで、片時も離れることなくプレーしてきた双子の兄・和幸だった。和幸もまた同様の症状に悩まされ、何度もチームを離脱した経験がある。だから、浩司が体調を崩すたびに、「時には厳しく、時には力強く励ましてくれた」のだ。

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