「禁断の移籍」組が熱戦を点火。
5万人を黙らせた、さいたまダービー

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

 そんな両者の背景を踏まえれば、ダービーの面白みはさらに増す。実際に局面、局面で、その因縁が交わり合った。最初の場面は、37分に生まれたMF柏木陽介のFKによるゴールシーン。レフティ特有のキックで壁を巻くようにニアサイドへ決めた鮮やかな一撃を、柏木は胸を張って振り返った。

「ノブ(加藤)の構える位置が真ん中だったので蹴りづらさはあったけど、コースさえ気をつければ絶対に入る自信はあった。蹴る方向は少し迷った。ノブは俺のクセを知っているから、壁を越してニアに来ると思っていたはず。だけど、ブレたくなかったし、自分のキックの質を信じた。そういう意味では、自分自身に勝ったFKだった」

 長年浦和に在籍していた加藤は、柏木のFKのクセも質も、当然理解していたはず。それでも、あえて自分の得意なコースに蹴り込み、ゴールを奪ってしまう。日本代表の常連となりつつある柏木が見せた、見事な業(わざ)だった。

  ところが、浦和はこのゴールで先制しながら、一瞬隙を見せた前半アディショナルタイムにCKから同点に追いつかれてしまう。試合展開としては面白みを増したが、実際はこの場面に象徴されるように、双方ともに集中力を欠くシーンがあったし、イージーなミスも目立った。前半の両者のパフォーマンスは、決して大観衆を満足させられるものではなかった。

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