【育将・今西和男】森山佳郎「入団してきた選手全員を成長させる」

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko photo by AFLO

 森山もまた今西との出会いによって人生が育まれた。最後に言った。

「ほとんどのプロ選手は、やっぱり自分をクビにした人というのは受け入れがたいものですよ。だけど、僕に限らず今西さんからそういう宣告をされて外に出たやつも、やっぱり今西さんのことを慕うんです。僕もチームを4つ渡り歩きましたけど、移った先でも必ず報告をしていた。いろんなサッカーの現場を見てきたけど、クビにした人というのは、もうその人との関係は駄目という場合がほとんどです。その中で今西さんはそうじゃない。それが、やっぱり今西さんという人物を物語っている」

 それだけの人物なのに、広島でも岐阜でも決して報われたとは言い難い。森山はその快活で真っ直ぐな性格から、他者の批判を軽々しく言わない。だから、こんな言い方をした。

「今西さんの会があるじゃないですか。岐阜でも広島でも。そこに来られない人って、どうなんだろうって。自分が育ててもらっているのに。だから、僕はその人自体の生き方はどうなんだろうって思っちゃいます」

 森山は席を立つと、大きなバッグを肩から掛けて、一礼してカフェを出て行く。これからFC東京のグラウンドに、ゴリさんの鋭い視線が注がれる。森山の率いるU-15日本代表は昨年末、フランス遠征に出掛け、イングランドを4対3で破っている。勝って育てるというゴリさんの真骨頂がこれから世界を相手に見られるだろう。 

 日本サッカーの次世代が花咲いたとき、そのDNAの根源にはひとりの男がいる。育てる人さえ育てあげた。今は地位も役職もないが、だからこそ、何の打算もない人たちにこそ慕われる。

 今西和男。生涯に章飾無し。されど孤独にあらず。徳は弧ならず必ず隣有り。

(おわり)

5 / 6

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る