【育将・今西和男】森山佳郎「入団してきた選手全員を成長させる」 (3ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko photo by AFLO

 全力で向き合った思い出深い選手は数限りない。

 現在、ロアッソ熊本でプレーしている平繁龍一は中学時代、パスが2mずれるだけで取ろうともせず、味方に怒っていた。ジュニアユースの監督・上野展裕(のぶひろ)が注意しても「うるせえな」とソッポを向くような選手だった。平繁はユースに上がる際に提携している吉田高校を受験したのであるが、何と面接で悪態をついて落ちてしまった。

 前日、森山が「勉強とスポーツを高いレベルで両立したいという態度で臨みなさい」と心得を伝えていたにも関わらず、「ユースに入るから仕方なく来たんだよ」と言ってしまったのである。森山は学校からの「落としますけどいいですか」という電話に、「落としてください」と伝えて平繁に向き合った。

「お前、昨日俺が何と言ったか覚えてるか? 言ってみろ」。平繁は覚えていた。たまたま欠員が出て2次募集があった。「気分も新たに頭を丸めて、受験しろ」「嫌です」「じゃあ、お前は何をしたいんだ!」「サッカーはしたいです」「でも、このままだと吉田高校に受からないぞ。それでもいいのか!」「いい」「じゃあ、どこに行きたいんだ。行きたい学校を言ってみろ。どこでも紹介してやるから」。

 熱を込めて話していたら、練習時間になった。コーチに「悪いけど、俺は今日はこいつと話すから進めておいて」と伝えて、座り直した。それから数時間ずっと話し合った。「何をしたいのか」「将来のサッカーの目標は何か」「そのためにはどうするのか」。

 突然、平繁が泣き出した。「どうしたんだ?」「嬉しいんです」「何が」「こんなに思ってもらって、かまってもらって、俺のことを」。まるで青春ドラマのワンシーンだった。「それなら受験するな? 坊主にして来いよ」。翌日、平繁はスポーツ刈りにしてきた。

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