福田正博が分析。五輪代表・手倉森監督が見せた「勝負師の采配」

  • 津金一郎●構成 text by Tsugane Ichiro
  • 松岡健三郎●撮影 photo by Matsuoka Kenzaburou

 ただし、どんなに効果的な手を打とうとも、選手は人間だから、機械と違って感情がある。選手が気分よくピッチに立てなければ、監督の狙いどおりには動いてくれないものだ。

 たとえば、浅野は所属のサンフレッチェ広島と同じく、今大会は途中交代で出場して試合を決める切り札、ジョーカーとして起用された。起用法は広島と同じだが、浅野にしてみたら、「同年代のチームなら、自分ほどJリーグで結果を残している選手はいないのだから、先発で試合に出たい」という欲があっても不思議ではない。

 しかし実際は、浅野は不満を持つことなく、今回のアジア最終予選でも途中出場の切り札というポジションを全力でやり遂げた。手倉森監督が選手一人ひとりにしっかり役割を伝えて、納得させることができていなければ、これほどの結果が生まれることはなかったはずだ。手倉森監督は、選手たちの気持ちをうまく引き寄せることができていたといえる。

 試合後の手倉森監督のインタビューを思い出してもらいたい。彼は質問を聴き終えると、喋り出すまでに一拍置くことが多い。彼は普段から"間"をあける話し方をするのだが、これは相手を自分の方へ前のめりにさせ、言葉により重みを持たせることができる対話のテクニックのひとつだ。

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