常勝アントラーズの大黒柱。小笠原満男が示す「プロの矜持」 (3ページ目)

  • 佐野美樹●文 text&photo by Sano Miki

 それから時を経て、Jリーグファーストステージの終盤、相変わらず中位をうろうろとしていた鹿島の練習場を訪れた。その際、小笠原と話をする機会があり、再び若手選手に対する自身の対応について何気なく質問してみた。すると、彼から意外な言葉が返ってきた。

「もう(若手選手に)言わないと、勝てない」

 切実だった。そのひと言に、若手選手に対するもどかしさや、チームが置かれた厳しい状況、小笠原が現状に抱く危機感……すべてが集約されていた。

 程なくして、トニーニョ・セレーゾ監督が解任された。

 後任には、鹿島のことを知り尽くす石井正忠コーチが就いた。石井監督は、チームを一旦白紙に戻して、すべての選手を同じスタートラインに乗せた。そのうえで、重視したのは、選手各々の主体性だった。その結果、経験のあるベテラン選手が重用され、キャプテンは小笠原に託された。

 その意味は、小笠原自身、重々理解したはずだ。そして彼は、切実な思いを吐露した、あの言葉どおりの行動をすかさず実践したに違いない。自らの行動で示すだけでなく、気づいたことは口に出して、若手選手たちにも直接指示を与え、さまざまな要求を伝えたことだろう。

 監督が交代し、心機一転となった鹿島の練習場には、多くの選手の声が響き渡っていた。なかでも、小笠原の声はひと際大きく聞こえた。セレーゾ監督を解任へと追いやってしまった自分たちの不甲斐なさもあり、もはやなりふり構ってなどいられなかった。強い鹿島の再現へ、小笠原はそれまで以上に精力的に行動し、言葉を発した。

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