【育将・今西和男】李漢宰「プロとして、あるべき姿を見せていきたい」

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • 織田桂子●写真 photo by Oda Keiko

「リハビリしても治らない。ここまで追い込まれたのは初めてでした」。1年経っても完治せず、札幌では活躍が出来ないままに、契約満了で退団となった。サッカーを続けたいが、治療中の身ではどこからもオファーがかからない。自分からアプローチしてもダメだった。

「どうしたいかを見つめ直すと、サラリーやチームのレベルは問題じゃない。僕はただサッカーがしたかった。そこでふと、思い出したんです。『あ、今西さんがいる』と」

 今西はサンフレッチェの総監督を辞した後もクラブ顧問を務めていたが、2008年に請われてFC岐阜の社長に就任していた。

 「ちょうど僕が札幌でケガをしているときに、岐阜との試合で、スタンドでばったり会ったんです。そのときに実はびっくりしたんです。ものすごくやつれていて、僕が知っている今西さんの顔じゃなかった。そんなに辛い経営状態の中、岐阜で頑張っているんだと。それに対して助けたいという気持ちと、もう一度サッカーをしたいという気持ち。一からやり直すには今西さんしかいない。それで何年かぶりに今西さんに電話したんです。

 今はこういう状態ですけど、サッカーがやりたいんですって。そうしたら、『ハンジェは広島から移籍してきて年俸も高いし、うちでは払えないんだ』と言われたんです。いや、僕はお金は要らないです。本当にもう一度サッカーがしたい気持ちだけでお願いしています。今はこんな膝なので動けない。ただ、必ず復帰して力になれる自信はあるので、何とかしてくださいと言ったら『わかった。一応スポンサーに聞いてやってみる』と。

 そうしたらもう次の日です。電話がかかってきて、『オーケーだ』と。しかも『治ったらお前がやれるのはわかっているから、それまで治療に専念してくれていい』とまで言ってくれたんです。だから、僕が入団記者会見で述べた言葉というのは、今西さんにすべてをささげたいと。岐阜が低迷しているのも知っていましたし、何とか自分が復帰して、少しでも上の順位に持って行きたいという気持ちが強くて、覚悟は相当があったのを覚えています」

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