【育将・今西和男】 森保一「プロ選手も、日本代表も教えのおかげ」 (4ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by Kyodo News

 キャンプの最終日、控えチームの責任者であった高田豊治(後のサンフレッチェGM、Jヴィレッジ副社長)からはひたむきさを称えてもらった。

「まだ下手くそで、技術も全然未熟だけど、君のハードワークを厭(いと)わない姿勢はすごくいいから、それをこれからも続けていきなさい」

 採用の最後の評価を下そうと直接面談をした今西は、森保の意外な一面を知る。サッカーに対する考えを訊ねると、ずっと目を見て受け答えをするのだ。「この年の高校生が大人と向き合って話をすると、ふつうは5分もすると集中力が無くなって飽きるんじゃが。こいつはしっかりと目を見てくるのう。集中力がある奴は可能性がある。たちまちサッカーはまだ上手くないが、伸びていくじゃろう」

 採用を決めた。森保にすれば望外の幸であった。特に大きな野心も無く漫然とサッカーをまだどこかで続けられれば、それで良いと思っていたところ、日本リーグの1部のチーム、それも福利厚生もしっかりしているマツダに入社が出来るのだ。お世話になります、と即答した。

 しかし、秋になると問題が起こった。

 この年のマツダサッカー部の採用枠は6人であったのが、予算編成の段階で一人削られて、5人になってしまったのだ。6番目の評価は最後に滑り込んだ森保である。会社から非情な通達を受けた今西は考えた。決定は覆らないという。事情を話して、ドライに採用を取り消すことを言われているが、それは森保の将来のためにも良くない。何とかならないか。今は6番目の評価だが、あれは必ずマツダのためになる人材だ。道を探しているうちにウルトラCを思いついた。本社採用が無理なら、子会社のマツダ運輸に入社させてもらい、そこでの登録をマツダサッカー部にするのだ。会社に掛け合い、根回しをしたうえで、下田を介して森保に打診すると、それでも来たいという。

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