磐田・名波浩監督が激白「リアクションサッカーはしない」

  • 渡辺達也●構成 text by Watanabe Tatsuya
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

――解説者としてピッチの外から見ていて、名波さんなりにジュビロの課題や問題点などは把握していたと思います。実際にチームの中に入ってみて、名波さんが思っていたとおりのチーム状況でしたか。

名波 個々のプレイのレベルとか、サッカーの質とか、そういう戦術的な部分は想定の範囲内だった。だから、「この部分が落ちているから、そこはこう直そう」とか「あそこはもっといじったほうがいいな」とか、イメージしていたことをやればいいな、と思った。ただ、(選手たちの)勝ちに飢えているとか、負けたくないという気持ちが、こんなに希薄だとは思わなかった。

 あともうひとつ、最も深刻だったのはチームがバラバラだったこと。選手同士のコミュニケーションがまったく取れていなかった。誰もが「俺は、俺は」って、最初に考えるのは自分のことだけ。「俺はドリブルします」「俺は攻めます」「俺は守ります」って、チームのことなんてお構いなしに、自分がやりたいようにやっていた。それはもう練習のときからで、みんながまずは「俺が」だから、ミスしたり、パスがこなかったりすると、「おまえ、何やってんだ」「おまえ、ふざけんなよ」っていう文句が先に出てくる。

 だけど、そうじゃない。大事なことは、チームがどうしたいのか。そのために、自分は何をすべきか、ということ。それを、教えることが最初に着手したことだった。文句を言うなら、自分のことを優先するんじゃなくて、「今、チームはどうすべきなのか、先に考えてからにしろ」って言い続けた。もっと根本的なことを言えば、「こうやって戦っていこう」という前に、「ちゃんとチームになれ」というところからスタートした。練習が終わったら、「選手同士誘い合って、お茶とか食事とか行けよ」って、そんなことから指導してきた。まだ、実践してない選手もいるけど、そのことは口酸っぱく言い続けていくつもり。

――そういう内情もあってなのか、監督就任後、リーグ戦9試合の結果は2勝2敗5分け。満足できる結果ではなかったと思うのですが、名波さん自身、その成績についてはどう見ていますか。

名波 成績に関しては、まったく想定の範囲外。現実とは反対の、5勝2敗2分けくらいをイメージしていたから。だから、さすがに「勝てねえな」って考えるときはあったよ。自分のサッカー人生の中で、一番勝てない期間が長かったから。

 その結果を冷静に分析すると、なかなか言葉で説明するのは難しいんだけど、サッカーを知らない選手が多かった、というのはある。よく言うのは、「余白」の使い方。例えば、ボールデッドの時間、ゲームが止まっているときにJ1の選手というのはいろいろなことを考えている。一方、J2の選手というのは、そこで休んじゃう。また、パスを出す場所とか、時間の使い方とか、何も考えないでプレイしている。受け手のこととか、出し手のこととか、少しでも考えてあげれば、その後の展開がまったく違ってくるのに、そういう周囲のことをまったく考えないでプレイしている選手が多かった。そこで、そうした問題を解消するにはどうすればいいか、というと、選手間のコミュニケーションが大事になってくる。結局、そこに行き着く。だから、それについては今後も徹底してやっていって、選手ひとりひとりに「サッカー」というものを叩き込んでいきたい。

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