現役引退の藤本主税。最終戦を前に起こした『事件』 (5ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真

結局、藤本がすぐに北嶋と小野監督に謝罪したこともあり、これが起用問題に発展することはなかった。

 そして11月10日、愛媛FC戦。藤本は後半23分に嶋田慎太郎と交代で、遂にピッチに立っている。交代を待っている間も、彼は泣き出してしまいそうだった。ピッチに出ると懸命に守備をした。それが熊本で試合に出るための課題だった。彼はプロサッカー選手であり続けた。感情量の多い男は、セレモニーでも赤く目を腫らすことになった。

――プロに入った藤本主税にタイムマシンで会いに行けたら、なんと声をかけるだろうか?
「“おまえ、19年やれんだぞ”ですかね。“マジでか?”とか、答えるんでしょうね。あのときは“とにかく家族の借金を返済せなあかん”、“オカンを楽にせな”というのだけを思っていました。23歳で借金は返すことができましたけど、プロサッカー選手になっていなかったらどうしていたんですかね? 19年間は感謝しかないですよ。自分が福岡でプレイしていたとき、33歳の選手がいて“くそじいやん”とか思っていたんですが、今の自分の年齢はそれを軽く超えちゃっていますからね」

 藤本は快活に笑った。

「(選手引退の)寂しさはないですね。清々しいです。これからのことは不安もありますが、それ以上に楽しみなんです」

 現在は監督として活動することを視野に入れて交渉を続けている。彼の目標は明確だ。指導者ではない、あくまで監督としての階段を上るつもりだ。   

――何十年後かに選手時代を振り返るとしたら、どんな自分を思い出すだろうか?
「なんか叱っているような、怒っているような感じの写真ですね。周りに対して指示を出しているような。僕はキャプテンシーのある選手というイメージはないのかもしれません。でも、とくに大宮では“ピッチの監督”のように振る舞っていましたから」


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