現役引退の藤本主税。最終戦を前に起こした『事件』 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真

 人を楽しませるのが好きな性格で、ゴール後の「阿波踊り」は世間の注目を浴びた。ゴールパフォーマンス文化は現在の広島に受け継がれているという。

 その藤本が選手引退を発表したのは、今年10月27日のことだった。

「引退を決めたのは、5月でしたね」

 藤本は告白する。

「(5月6日の)札幌戦で使ってもらったとき、ビッグチャンスを作り出すことができたんです。サブからレギュラーを狙う立場の選手として、翌週の湘南戦は長い出場時間がもらえるかなと思っていました。実際、交代出場でチャンスを与えてもらいました。なのに、自分は何もできなかった。2点をぶち込まれて3-1で負けたんですよ。そのとき、"ふっダメだな、俺"みたいな感じだったんです。客観的に自分を見て、笑っちゃうなと。今までの自分だったら、負けたことが悔しくて怒っているはずなのに。心がボキって折れたみたいで」

 それからは感情が容量を超え、ショートしてしまったようだった。焦げ臭い匂いだけが漂い、藤本にはどうすることもできない。その週、彼は練習後のジョギングで北嶋秀朗にこう漏らした。

「俺、もうダメだわ」

 選手時代からの戦友で、現在はコーチでもある北嶋は引き留めるような言葉は口にしなかったという。

「そうっすか」

 同じように現役にこだわった北嶋には、藤本がそう告白するにはそれだけの理由があると意をくみ取れた。

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