リーグ1位の得点力。鹿島は「大迫ロス」をどう克服したか? (2ページ目)

  • 田中滋●文 text by Tanaka Shigeru 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 シーズン中、連戦が続くようになると、トップチームの練習内容はコンディション調整だけで終わることも多い。その結果、人数もままならない控え組の練習は、自ずとモチベーションが下がり気味になり、おざなりな練習になることもある。しかし、トニーニョ・セレーゾの本領が発揮されるのは、ここからだ。

 その中だるみの時期を、居残り練習で若手だけを鍛えるための絶好の機会ととらえ、主力以上に情熱を注いで指導した。トップが2時間、控え組が2時間、計4時間を練習時間に割くこともあり、歴代のブラジル人監督のとなりで常に控えてきた高井蘭童通訳は、「サッカーを心から愛している人」と、トニーニョ・セレーゾを讃える。家に帰ってもサッカーのことばかりを考え、部屋にはそこら中に気づいたことや、練習について書き出したメモが散乱しているそうだ。

 そして就任2年目、トニーニョ・セレーゾはチームの若返りを一気に図る。1年間の下地があったため、大迫の移籍にも大きな動揺なく対応することができた。とはいえ、試合経験のない選手たちを練習だけで鍛えるには限界があったため、シーズン当初は左右のサイドハーフのポジションを固定し、中盤の流動性を封印。攻撃の幅は制限されるものの、守備に切り替わったときの影響が最小限になるよう考慮した。

 だが、徐々に試合に慣れ始めると、それを解き放った。今ではその制限もないに等しく、誰かがポジションを離れてプレイすれば、他の誰かがそこを埋める感覚がチーム全体に染み渡っている。サイドの守備のバランスが崩れていると、トップ下の土居聖真がそこを埋めている場面など、日常的に見ることができるようになってきた。

 つまり、選手のレベルに応じて、段階を追ったチームづくりを進めてきたことがわかる。基礎を叩き込まれた選手たちは、試合経験を積むことで、少しずつ実行できる範囲を広げていった。

 しかしそれだけでは、昨季大迫がマークした19得点は埋まらない。改善されたのは、中盤の選手たちの得点意識だ。遠藤康(現在9得点)、土居聖真(8得点)、柴崎岳(5得点)といったMFたちがゴール数の自己ベストを更新。ゴール前のパターン練習とシュート練習は、セレーゾ監督が最も時間を割く練習メニューのひとつだが、その成果と言えるだろう。

 そして、ゴールへの意識は、「鋭利なカウンター」を新たな武器として覚醒させた。対戦相手の監督たちも警戒するようになった鹿島の鋭い速攻だが、シーズン当初は、ボールを奪っても選手の動き出しは遅く、そう呼べるような攻撃シーンはほとんどなかった。

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