リーグ1位の得点力。鹿島は「大迫ロス」をどう克服したか?

  • 田中滋●文 text by Tanaka Shigeru 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 選手の能力を見極めるのは、難しい――。特に若い選手ほど、簡単ではない。秘めたる能力を開花させ、成長していく姿を思い浮かべるのは楽しい作業だが、それを実際に導くことは容易ではない。ましてや、そうした選手の集合体であるチームの「未来予想図」を描き出し、現実をそこに当てはめていくことは、極めて難しいことだろう。

今季5ゴールを挙げ、日本代表にも選出された柴崎岳今季5ゴールを挙げ、日本代表にも選出された柴崎岳 今年、リーグ戦で19得点を決めた大迫勇也が1860ミュンヘンに移籍した鹿島には、厳しいシーズンが待っていると予想された。しかし、フタを開けてみれば現在リーグ3位につけ、総得点は53。残り7試合の時点で昨季の60得点に迫るだけでなく、攻撃的なイメージの強い川崎FやG大阪を抑え、リーグNo.1の得点力を誇っている。その結果、開幕前に駒不足と思われた陣容には、いつの間にか粒ぞろいの若手が顔を並べ、対戦する他クラブから強く警戒されるようになった。実際、日本代表にも柴崎岳、昌子源、西大伍の3選手が選出されるなど、選手たちの質も高く評価されるようになった(昌子源は筋挫傷により代表を辞退)。

 チームを率いるのは、2季目を迎えたトニーニョ・セレーゾだ。シーズンに入る前からチームの力不足が囁(ささや)かれる中、指揮官は、「絶対に大丈夫」と周囲に伝えていたという。その自信はどこにあり、「大迫ロス」をどのように克服したのだろうか。

 まず大きかったのは、就任した2013年当初から、すでに2ヶ年計画を立ててチームづくりを進めていたということだ。そのおかげで、大迫の移籍にも対応できる下準備ができていた。

 どういうことかというと、1年目の昨季は、試合でジュニーニョや中田浩二というベテラン選手を重宝し、彼らの高い経験値と残された能力をできる限りしぼり出してもらい、優勝が狙える位置に食らいつきながらシーズンを通して戦った。そして同時に、練習では若手を徹底的に鍛え上げたのである。

 攻撃的な選手であれば、バックパスをするのではなく、勇気を持ってゴールに向かう戦闘意欲を。ボランチであれば、ポジショニングや、何を考えて試合を進めるべきなのかを。ディフェンダーであれば、まずはリスクの少ないプレイが選択できるような意識づけを。そしてチーム全体には、球際で激しくプレイする気持ちを......。何度も、何度も、繰り返し選手に訴えかけることで、水が地面に染みこむように、試合でやるべきことを少しずつ浸透させていったのだ。

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