豊田陽平「仲間のために戦えるのが鳥栖の強さ」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by AFLOSPORTS

 彼はこれまでも率先して献身を体現し、同時に自らの成長にもつなげてきた。それは簡単な挑戦ではなかった。ゴールゲッターにとって、献身は我欲を消すことでもあるからだ。

「鳥栖はチームの特性上、リードすると無理をしなくなるんです。だからそうなったら、セットプレイでチャンスをうかがいつつ、守備で貢献しようと割り切るようにしていますね。(現在のチーム戦力では)勝利か、自分のゴールか、どちらかを選択するべき。二つ取れればいいですが、両方取りに行こうとすればどっちもダメになる。もちろんFWだから、ゴールが欲しい葛藤はありますけどね。そこは勝負に徹するというか、欲を出さない」

 それは鳥栖のストライカーとして行き着いた結論だった。

 豊田はゴールに対するエゴを持ちつつも、味方に対しては極力それを出さない。例えばW杯メンバー発表前のリーグ戦。大久保嘉人(川崎F)は8得点でメンバー入りし、豊田は7得点で落選したわけだが、第9節の名古屋グランパス戦で豊田は勝ち取ったPKを蹴っていない。

「韓国客船沈没で亡くなった人への哀悼のゴールを決めたい」と意気込む金民友(キム・ミヌ)に、彼はキッカーを譲っている。もし豊田が蹴っていたら、得点数は同じだった可能性がある。W杯メンバー選考に影響していたかもしれない。

 しかし平然とエゴを捨てられるところに、豊田の人間的本質はあるのだろう。

 彼は仲間のために戦える。その姿は潔(いさぎよ)いだけに、周りも自然と彼のためにプレイしようとする。その共闘によって、豊田と鳥栖はJ2から這い上がってこられた。だからこそ、彼はリップサービスではなく、本心から「鳥栖のためにプレイする」と口にするのだ。

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