出場機会0。ブラジルでの現実を受け止めた齋藤学 (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by JMPA

「優勝を逃した後の数日間は無力感にさいなまれていたので、知り合いの人が心配して、『J1昇格のプレイオフ決勝に行こう』って外に連れ出されました。一人にはしていられない、というように見えたらしいです。天皇杯のタイトルが残っていたので、“絶対とってやる”となんとか気持ちを切り替えられました。それで勢い込んで、足首をケガしてしまったんですけど」

 気持ちがつんのめったのだろう。練習再開初日、気負いすぎた彼はミニゲームで足首を捻挫してしまった。明らかな失敗だが、一本気は彼らしい。数日後に開催されたJリーグアウォーズでは、表彰台で優勝したサンフレッチェ広島の選手たちがはしゃいでいる姿を見て、また歯ぎしりした。

 マリノスは天皇杯を勝ち抜き、元旦の決勝は広島と当たっている。前半17分だった。齋藤は右サイドで作ったチャンスから、正確なシュートを突き刺した。チームは2-0で勝利し、憂さを晴らしたのだった。
 
彼の勝利への執着心と敗北への嫌悪は、周囲も舌を巻くものがある。

「あいつは“顔ほどいい人”ではない」と、マリノスのチームメイトは証言する。

大先輩である中村俊輔とも、ピッチでは口論になることもある。サッカーにおいては、「正しくない」と判断したら、誰であっても正面からぶつかる。一流になる選手には、どこか悪辣とした勝負へのこだわりがあるものだ。

「できるようになってきたこともありますけど、まだまだ足りないことばかりです」
 
 齋藤は勝利するたびに言い、悦に入るところがない。
 
 2014年5月12日、齋藤はブラジルW杯日本代表メンバーに選出されている。

「発表までの試合で、マリノスで何度かスタメンを外れていたんです。だから、W杯代表に選ばれる、選ばれないの前に、なんで目の前の試合に出ていないんだ、という歯がゆさはありましたね」

 彼は不安も感じていたが、その実力は代表監督であるアルベルト・ザッケローニに高く評価されていたのだろう。

 スピードの変化を自在に操り、敵の裏を取れるドリブルは世界でも大きな武器となる。攻めを活性化させ、決定的な仕事もやってのける。ゴール前を横にスライドしながら、シュートコースを見つけ、体の軸をぶらさずにコントロールできるシュートは、“伝家の宝刀を抜く”との表現に値する。

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