新生ガンバの意外な企み。遠藤保仁「FW」起用の真相

  • 飯尾篤史●文 text by Iio Atsushi
  • photo by Getty Images

「居心地が良かったですね」

 遠藤と2トップを組んだ宇佐美の、昨シーズン終了後の感想だ。

「ヤットさんはフラフラしているようで、ここで顔を出さなアカンっていうときには、必ず顔を出してくれる。僕が得点することに専念できたのも、ヤットさんが側にいてくれたおかげ」

 パスを出せて、ポジショニングも巧みで、キープ力もある。おまけにシュートも上手い選手を、相手にとって最も危険な位置で起用するのは、当然のことだろう。

 とはいえ、何かを得るには、何かを犠牲にすることもある。

 遠藤のFW起用で失うもの――。それは、当たり前の話だが、ゲームメーカーとしての「ボランチ遠藤」だ。主力同士が戦った甲府戦の最初の90分間、ガンバは攻撃をほとんど組み立てられなかった。

 ガンバの選手たちに疲労が溜まっていたのも要因だろうが、5バックを敷く甲府のタイトな守備の前に、遠藤までボールがなかなか届かない。遠藤はときおり中盤まで下がって来たり、サイドに流れたりしてボールを要求。ときには囮(おとり)になったり、裏に飛び出してみたりして揺さぶりをかけたが、残念ながら、この日は奏功しなかった。遠藤は言う。

「このポジションは我慢が必要になる。まあ、リズムが作れなければ中盤に降りればいいし、その辺りの判断は任されているんで。もちろん、相手のディフェンスラインにプレッシャーをかけ続けるという意味では、降り過ぎるのはよくないことだから、その辺りのバランスには細心の注意を払っていますけどね」

 遠藤をFWで使えば、中盤の構成力が下がるのは避けられない。

 もっとも長谷川監督は、それも織り込み済みのようである。4人の中盤の顔ぶれを確認すれば、遠藤のFW起用の、もうひとつの狙いが見えてくる。

 甲府戦でボランチに入っていたのは、日本代表でセンターバックを務める今野泰幸と、2年前までセンターバックが本職だった内田達也。2列目の左には守備意識が高まり、昨シーズンは攻守両面でチームを支えた倉田秋、右にはサイドバックの加地亮が攻撃参加した際に、カバーやフォローを欠かさない大森晃太郎が起用されている。いずれも守備力や守備意識が高く、献身的な選手たちなのだ。

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