小笠原満男の後継者。鹿島・柴崎岳に芽生えた「エースの自覚」 (2ページ目)

  • 佐藤克彦●文 text by Katsuhiko Sato
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 だが、当の柴崎からは、その気概が強烈に伝わってこない。なにしろ、1月20日に始動したチームは1月28日から毎年恒例の宮崎キャンプに入ったが、柴崎はいきなりチームの輪から取り残された。体調不良により、1週間ほど別メニューでの調整となったのだ。

 その後、なんとかコンディションを立て直して、キャンプの最後を飾るプレシーズンマッチ、アビスパ福岡戦には出場したが、そこでもやや物足りなさが残った。前からアグレッシブにくる福岡のプレッシャーに押されて局地戦を強いられる中、柴崎は広い視野で状況を打開。大きなサイドチェンジのパスを効果的に使って、鹿島の攻撃にアクセントを加えていたものの、昨季からプレイスタイルがガラッと変わった印象はなかった。

 もちろん、ボールを失うこともなく、プレイの安定感は抜群だったが、小笠原が求めるような"わがままなプレイ"は、ほとんど見られなかった。相変わらず周囲に気をつかって、ボランチでコンビを組んだ小笠原や、新加入のルイス・アルベルトらの動きに合わせて、全体のバランスを取ることに終始している感があった。

 しかし――それは目に見える表面的な印象でしかないのかもしれない。

 なにしろ、チーム作りはまだ中盤に差し掛かったばかり。メンバーも固まっていない中で、「まだこれから、という部分が多い」という柴崎は、周りの選手の動きを確認し、連係面におけるテストを繰り返しているようにも見えた。いや、確かに主力選手として、最低限やるべきことをこなしていた。

 これまでも、チームのやり方を誰よりも理解し、自分なりに消化してきた柴崎だが、今ではたとえ出遅れたとしても、チーム全体の状況を的確に把握。自分のことよりも、まずはチームがうまく機能することを優先した行動を心掛けていた。そう考えると、そうした彼なりの行動にこそ、チームの中心、つまり"エース"としての自覚が強く表れているのだ。

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