松田直樹はなぜ今も後輩たちに影響を与えているのか (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komoya Yoshiyuki
  • photo by GettyImages

 先人の偉大さは、今も後輩たちに語り継がれる。例えば、日本代表として長く活躍を続けてきた中村俊輔(横浜F・マリノス)はこう評している。

「マツさん(松田)はいつも自分のことを周りによく言ってくれていた。そういうのは自分もまだ若かったから、すごく自信になった。マツさんが後ろにいたから、自分は好き勝ってできたと思う」

 また、現在の日本代表である齋藤学(横浜F・マリノス)もこんな吐露をしている。

「マツさんは、見ていて格好良かったです。だからマリノスでトップチームに昇格したときは、食事に誘ってもらい嬉しかったですね。マツさんのいたマリノスが10年前に優勝したとき、僕はボールボーイだった。僕もマリノスを優勝させたい」

 魂は受け継がれる。松田は過激な発言や行動で誤解されることもあったが、彼ほど選手に愛された選手はいない。ピッチで戦っているか、逃げていないか、それが男としての価値基準だった。

 松田は熱い口調でこんな話をしていたことがある。

「俺さ、後輩の選手に怒ったことがあんの。『●●さんはマジ、やばい。自分とは格が違う。絶対に追いつけない』なんて、同じポジションの選手のことをずーっと褒めてたから。俺は周りの選手を認めないよ。認めたら、負けだから。プロの世界は、強い気持ちを見せ続けないと」

 先達として、常に負けん気を示してきた。それは後輩を慈しむ、熱く優しい叱咤でもあった。

 最後のチームとなった松本山雅でも、松田は全力で生きていた。守備が苦手な攻撃の選手には、「お前は守りよりも点に絡め。その分、俺が二人分見てやっから」と発奮させる言葉を掛けた。技術的に拙いディフェンダーには、「お前さ、ヘディングならボンバーにも負けねぇぞ!」ととことん長所を持ち上げた。そして松田自身は志半ばで倒れたが、残った選手たちがJリーグ昇格を成し遂げたのだ。

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