昇格逃したV・長崎。主将の佐藤由紀彦が語る「戦いは終わらない」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 松岡健三郎/アフロ●写真 photo by AFLO

 それでも長崎のフロントは、佐藤に契約更新を提示した。

「必要とされる人間なんだ、と感じられるのは、やっぱり嬉しいっすよね」

 佐藤は相好を崩して言う。

「一人の選手としては、これほど何もできなかった年はないです。"これじゃ、やめられない"という思いが正直なところ。もがき足りないですよ。そんな中、プレイ云々じゃなく、チームにおける人間の部分の貢献をフロントが評価してくれたんです。痺(しび)れる言葉をかけてもらいましたが、それはあえて自分の心の中にしまっておきます。自分の振る舞いを見てくれた、そう思うと胸が熱くなりました」

 彼の存在は長崎において、"重石"のようなものだ。若く未熟な選手たちが多い中、風に吹かれそうになるところを、彼がつなぎ止めた。佐藤のような練達な選手がいることにより、チームは浮き足立つことなく戦い続けられたのだ。

「でも俺は、若い選手よりも立場が上とか、そんなこと考えたことないですよ。戦う背中なんて勝手に見ろっていう感じ(笑)。意識なんてしていません。本能のおもむくままやっているだけ。上も下もない、対等ですよ。そもそも今シーズン、俺は試合にほとんど出てないわけだから、どちらかと言えば下の選手。むしろ、"こいつらからいいとこ盗みたい"と思っているほどですから」

 そして彼はこう続けた。

「俺はできた人間じゃないんで、厳しい走りの練習には先頭立って文句を言いますよ。でも、必ずタイム(制限時間内)には入るんです。入れないで不満をたれる選手は格好悪いから。俺にとってサッカーは、格好いいか、格好悪いか。プロ19年目、今年は一番きつかったですよ。でも若い奴らに混じって厳しい練習を乗り越えたことで、夏場以降は体も自然と軽くなってきました。それは自信になっていますね。俺は反抗心をエネルギーに換えられるんです」

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