磐田のJ2降格は「サッカー王国・静岡」の凋落が原因!?

  • 望月文夫●文 text by Mochizuki Fumio
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

 要するに、大榎氏をはじめ、川口、鈴木氏が言う、“王国”の中でもまれ、“勝者のメンタリティー”を持ち合わせていた選手たちが、過去には磐田にも、清水にも在籍。彼らが躍動したからこそ、Jリーグの頂点にも立てた。だが今では、“王国”が崩壊。厳しい環境の中で戦ってきた選手が少なくなってしまった。静岡の高校サッカーの弱体化が、磐田や清水の低迷のきっかけとなっている可能性は十分にありそうだ。

 さらに、“王国”のベースを築いた小学生世代も、静岡の代表は2001年の静岡FC以来、10年以上も優勝から遠ざかっている。前述の大榎氏が語る。

「清水では以前、小学生のほぼ全員がサッカーをしていて、その数は千人を下回ることはなかった。それが今では、数百人程度しかいない。そうすると、人口が多い首都圏あたりのチームには対抗できなくなってくる。そういう子どもたちが全国で好成績を残せないまま、中学校や高校に行くわけだから、静岡の高校が全国大会で振るわないのは目に見えていますよね」

 また、現東海大翔洋サッカー部の総監督を務める望月保次氏は、こんなエピソードを披露してくれた。

「昔はサッカーの指導書なんてなかったから、個々の指導者が模索して、工夫しながら選手を育ててきた。でも今は、立派な指導書があるから、それに沿って選手を育てている指導者がほとんど。だから、同じような選手ばかり育って、全国に出て行っても、他の県の選手と大差がない」

 かつては個性派ぞろいだった静岡の高校生たちも、最近は平均化されてきているという。結果、プロのクラブにとって魅力ある人材も少なくなってきているようだ。静岡の高校出身のあるJクラブのスカウトが語る。

「地元出身者をプロクラブに入れるのは、彼らの郷土愛からくるプラスアルファーの力も期待してのこと。ジュビロやエスパルスが強かった時代、静岡県の高校出身者の比率が高かったことが好結果の要因のひとつであることは間違いないと思います。ところが今、静岡の高校出身者を獲得したくても、そのレベルにある選手がいないのが現状なのではないでしょうか」

 もちろん、全国を見渡せば優秀な選手はたくさんいる。そうした選手を効果的に獲得できれば、何ら問題はないだろう。とはいえ、これまで「王国」の名をほしいままにしてきた静岡のサッカーファンにしてみれば、磐田や清水から静岡県出身の選手がどんどん減っていくのは寂しいのではないだろうか。

 サッカー王国・静岡の凋落は、決して磐田J2落ちの主因ではない。ごくごく一部の要因に過ぎないだろう。しかし、Jリーグや日本サッカーを長年支えてきた「サッカー王国」静岡の捲土重来を望む声は、関係者・ファンの間で大きくなりつつあることは確かである。

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