F・マリノス、悲願達成へ。齋藤学が誓う「10年前の再現」 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 今季のF・マリノスの強さを支えているのは、DF中澤佑二を中心にした守備陣の安定にあるだろう。GK榎本哲也は守備範囲が広く、ビッグセーブで(相手に)流れを与えていない。右サイドバックの小林祐三は「Jリーグ最高のサイドバック」に値するプレイを披露。また、ボランチの中町公祐は「チームプレイヤータイプ」のボランチで、敵の攻撃を潰し、味方の攻撃を潤滑にする地味な仕事を高水準でこなしている。そして、試合を決定づける仕事を果たす、司令塔の中村俊輔とFWマルキーニョスのふたりは風格すら漂わせる。

 GKからFWまで、毎週試合を見ているファンなら名前を諳(そら)んじられるように、メンバーを固定したこともポジティブに作用している。お互いをサポートし、カバーする形が各選手の間で確立された。その結果、倒れそうで倒れない、腰の強さのあるチームになっている。

 土俵際に強いチームで、相手を腰砕けにする役割を担っているのが、齋藤である。

 彼は単なるドリブラーではない。最大の武器は、ゴールへの選択肢を豊富に持ち、それを局面がめまぐるしく変わる中、適切に選択できることにあるだろう。

 例えばサイドでドリブルを始め、細かいシュートフェイントをかけながら、スライドして敵陣を崩すプレイは得意の形だが、ドリブルしながら相手が足を出してくるように仕向けている。ディフェンダーにとって足を出すことは刀を振るようなもので、一太刀がかわされると次は後手に回る。そこで齋藤はディフェンダーに刀を振らせた(態勢が崩れた)後、斬り捨てる(ドリブルからシュートを放つ)のだ。

「外国人選手のほうが食いついてきてくれるから、やりやすいですね。(7月の)東アジアカップのオーストラリア戦なんか、めちゃ楽しかったです」

 齋藤は嬉々(きき)として語っているが、メッシやネイマールのドリブルが怖いのも、それがフィニッシュにつながるからだろう。シュートモーションをかけることで、相手はそれを防ごうとしてくる。それが陽動か、本気かは相手に読ませない。読まれたとしても、その逆を取れる賢さを彼は身につけている。

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