鈴木大輔(柏)が語る「CBとして代表で守ることの面白さ」 (6ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • スタジオ・アウパ●写真

 あるいは、次に泣くときがさらなる成長を遂げるときになるのかもしれない。

「タイトル取ったときですかね? いや、でも、泣かないっすよ」

 悪戯(いたずら)っぽい顔で彼は答えている。例えばアジアチャンピオンズリーグの頂点に立つことができれば、彼の価値も自然に上がるだろう。必然的に、鈴木本人の確固たる自信となる。過酷な試合経験と栄えある実績は選手としての才能を覚醒させるに違いない。それは日本代表、W杯につながるはずだ。

「日本代表のユニフォームは各年代で着させてもらいましたけど、やっぱり気持ちが引き締まりますね」

 鈴木は神妙な面持ちで語る。

「代表はやっぱり様々な人の思いというか、大きな力が働いているのを感じます。責任というか、背負っているのを感じますね。ブラジルW杯ですか? 自分は先のことはあまり考えないスタンスなんですよ。プロに入ったときも、ロンドン五輪出場なんて思ってもいなかった。今日の練習でどんだけやれるか、そういう取り組み方なんで、これからのことは分かりません」

 彼はディフェンダーらしくはぐらかし、口を窄(すぼ)めてこう続けている。

「僕はそんなに落ち着いていないですよ。そもそも、ちっちゃい頃の僕はFWとか、攻めるのが好きだったんです(笑)。でも、上に行くのにセンターバックでしかいけなかったんでしょうね。中学の頃にセンターバックをやらされるようになったんですけど、最初は“なんで前じゃないんだよ!”と恨めしい気持ちで。もしタイムマシンでその頃の鈴木大輔に会ったら? きっと、『センターバックでいいぞ』と肩を叩いてやるでしょうね(笑)」

 2013年8月21日、柏。アジアチャンピオンズリーグ準々決勝第1戦、鈴木は右CBとして先発出場している。

 アル・シャバブの10番、マクネリ・トーレスはコロンビア代表で、(ワールドユースベスト4に進出など)「黄金世代の旗手」と言われる。その世界レベルの技巧派アタッカーの攻撃を、鈴木はことごとく読んでいる。的確なポジショニングでパスコースに入り、何度かインターセプトに成功。あまつさえ、何度か精度の高いくさびのパスを入れ、攻撃陣を鼓舞した。

 結局のところ試合は、工藤の得点でリードしながら、CKのこぼれ球をブラジル代表のフェルナンド・メネガッソに叩き込まれ、ドローに終わっている。ホームで失点しての引き分けは、アウェーゴールルールを考えれば楽観はできないだろう。しかし後半は攻められる時間が長くなる中、柏の守備陣は良く耐え抜いたとも言える。

 ミックスゾーンに現れた鈴木の表情に曇りはなく、むしろ凛(りん)として自信が横溢(おういつ)していた。

「柏はこれまでも接戦を制してきているので、自信はあります」

“やり切った”、その実感がある限り、彼は戦いの中で進化するだろう。記者たちが日本代表でもある彼に群がり、レコーダーを向け、ペンを走らせる。鈴木は汗を流しながらも淀みなくその問いに答える。激しい雷雨が降り終わった後の会場は、うんざりするほどに蒸していた。

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