鈴木大輔(柏)が語る「CBとして代表で守ることの面白さ」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • スタジオ・アウパ●写真

「サイドバックから見える景色はセンターバックとは違います。センターバックとして戻ったときに、成長するためのキッカケにしたいですね。今はがむしゃらに、与えられたところでレギュラーを取ることがこれからにつながると信じています。なにより、試合に出ることが大事なんで」

 切迫した試合を闘う。

 そこにサッカー選手のアイデンティティのすべてがあるのだろう。試合の中でしか、選手は成長を実感できない。緊張感、あるいは恐怖感に似た感情が押し寄せることもある。だがもしそうだとしても、試合の陶酔はなにものにも代え難い。

「(精神的に高ぶる試合の前では)中学時代に一番聞いていたアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の曲を聴くんです。すると、気持ちが落ち着くというか、リラックスした状態になるんですよ」

 鈴木は“儀式”を明かす。

「たぶん、中学のときが一番楽しくサッカーをしていて、試合が楽しみで仕方なかったんですね。遠征のバスで、その曲を良く聞いていたんです。1日に何試合もするような遠征で、昼間に出かけて夜に帰ってくるんですけど。今はプロになって仕事という意識がありますが、純粋にサッカーの試合が楽しかった頃を思い出すと、不思議と緊張しなくなるんですよ」

 物事を順序立てて考える性格で、その点において極めて念入りな男である。しかし、意外にも感情の部分こそが、サッカー選手としての柱となっているのかもしれない。淡々と話すが、端々に志の高さが見える。核になっている部分は熱い。

「自分はあまり泣いたことはないんですが。高1で出場した大会、なんにもできずに負けたとき、無力感だったんですかね、悔しくて自分が情けなくて涙が出ました。そんな後悔はしたくないとそのときに感じたから、それからは“やり切って試合に出る”というようになりました」

 プロに入ってから鈴木は、一度だけ人前で涙を流している。新潟で過ごした最後のシーズン、最終節まで残留を懸けて戦う中、試合後に入ってきた他会場の結果で残留が決定したときだ。安堵感で、涙が止めどなく溢れてきた。

「(涙腺を)止めようとしたんですけど、あれはどうしようもなかったですね(笑)。もしJ2に降格していたら、自分が新潟を出ることはなかったですよ。その意味では、残留できたことも転機だったのかもしれませんね」

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