セットプレイなしでも強い。「変身」した横浜F・マリノス (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by AFLO

 ところが、夏を迎え、徐々に暑さが厳しくなってくると、横浜FMは失速するどころか、むしろ勢いを増していった。

 その最大の要因が、「ボールポゼッションの強化」にある。

 開幕当初の横浜FMはボールがうまく回らないと中村がボールを受けに下がってしまい、その結果、チーム全体の重心も後ろに下がり、攻撃に厚みを作ることができずにいた。

 しかし、現在は「2ボランチと俊輔の三角形のバランスが取れている。いい関係を築けている」と樋口監督。中村が下がったときには、ボランチの中町公祐が前に出るというバランスが取れており、パスをつなぎながらボールを前に運び、相手を押し込むボールボゼッションができているのだ。MF兵藤慎剛は言う。

「立ち位置(ポジショニング)とサポートがよくなってきている。シーズンのはじめより、ビルドアップが安定してきた」

 しかも、中村が「ボールを回しながら常に(縦パスやスルーパスを)狙っている」と語るように、ボールポゼッションを意識しすぎるあまり攻撃が停滞することもなく、かといって、やたらと攻め急ぐこともない。

 遅攻と速攻。横浜FMは中村という優れたコンダクターを中心に、緩急の使い分けが抜群にうまくなっている。

 と同時に、横浜FMの勢いを補強しているのが、高い位置からの積極的なプレスである。

 ボールポゼッションで相手を押し込んだうえに、ボールを失ってもすぐに高い位置からボールを奪い返しにいく。そうすることで、相手が苦し紛れに前方へ蹴り出したとしても、DFやボランチが易々(やすやす)とセカンドボールを拾えるわけだ。

 以前、中町が「自陣で力を使って守備をするのはきつい。敵陣で自分たちから(ボールを)奪いに行くほうがいい」と話していたが、一見、飛ばし過ぎにも見えるほどの果敢な姿勢は、酷暑の夏が終わりに近づいてもなお、衰えをまったく感じさせない。

 圧勝した浦和戦の先制点も、そうした積極的な守備から生まれたものだ。浦和DFの那須大亮が自陣ゴール前でボールを持ったところを一気に襲いかかり、ボランチの小椋祥平がボールを奪い取ると、フリーの中村が楽々とゴールを陥れた。兵藤が振り返って言う。

「前からうまく(プレスを)ハメられた。それから浦和はボール回しをビビりながらやっていたように見えた」

 こうなると、横浜FMの思うつぼである。ペトロヴィッチ・浦和監督が「3バックと2ボランチのところでうまく組み立てができなかった」と語る浦和は、まったくボールを前に運べなくなり、さらに2失点。ほとんどサッカーをやらせてもらえないままに、大勢は決したのである。

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