小林祐三(横浜FM)のSB論。「守りでは誰にも負けない」 (4ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Fujita Masato

「サイドバックがチームで一番目立つ選手であるべきではない、というのが自分のサイドバック論です」

 小林らしい表現である。例えばスペイン代表右SBのアルバロ・アルベロアは、地味だが、守備者として評価を浴びる。無論、90分間守備に回るわけではないから、味方にパスコースを作り、クロスを上げ、ときにはゴール前に入るプレイも欠かせないが、攻撃は堅守の上に成り立っている。

「横浜であれば、シュンさん(中村俊輔)が目立てばいいんです。僕はシュンさんのような選手たちが、『右サイドはあいつに任せて大丈夫』と安心してプレイし、ストレスを軽減させることができればいい。守備は当然、ポイントになって時間を作ったり、チームありき。自分のキャラクターは献身性と忠誠心の二つですよ。そんなこと言っているから、自分のプレイは伝わりづらいんでしょうけど(苦笑)」

 世が世なら、小さな砦(とりで)を守って討ち死にしても、味方本軍を助ける男だっただろう。ここぞと言うとき、自分の持ち場を決死の覚悟で守る。功名や手柄は欲しない。“チームのために死ねる”選手だ。

 無骨な戦いの流儀は、少年時代にルーツがあるのかもしれない。
 
 小林は小学校を東京、中学校を埼玉、高校を静岡と、それぞれ異なる地域で過ごしている。大人と違い、無垢な子供は環境の変化に対応するのに時間がかかる。“学校や近所で自分の立場を確立し、コミュニティーの一員になる”というコミュニケーション作業は、大変な精神的消耗を強いられる。多感な少年期、彼はそれを節目となる小、中、高ごとに経験しているのだ。

「“周りとの関係性ができてくると、また引っ越し”みたいな感じでした。例えば中学に上がると、普通は小学校からの知り合いが何人かは必ずいるわけじゃないですか? それが自分には一人もいなかった。それはサッカーチームでも一緒でしたけど」

 小林はそう告白するが、悪いことばかりではない。人との関係性を何度も築き直すことは、図らずも彼の心を強くすることになった。

「自分がどういう人間かを伝えたり、相手がどういう人間かを理解したり、アウトプットとインプットに自然と慣れたかもしれません。それはサッカーにおいてはアドバンテージになっていると思います。同じチームには、正直うまいとは言えない仲間もいたし、いろんなレベルや考え方を持っている仲間がいました。その中で関係性を築く必要があったんです。サッカーはコミュニケーションなので、今考えれば1チームで同じ選手とずっとやるよりも良かった。単純に、一緒にプレイした選手の数が多いですから」

 めまぐるしく変わる環境で、小林は1/11としていかに振る舞うか、の術を身につけたという。

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