アーセナルに惜敗。浦和レッズが世界レベルに近づくためには? (2ページ目)

  • 菊地正典●文 text by Kikuchi Masanori
  • 山添敏央●写真 photo by Yamazoe Toshio

 また同時に、坪井が世界との違いとして挙げたのが、「判断の早さ」だった。奇しくもこれは、ベンゲル監督がかつて日本サッカーの課題として挙げていた要素でもあった。アーセナルの攻撃は速い。それは基礎技術が高いのはもちろんのこと、仕掛けるなら仕掛ける、パスを出すならパスを出す、走るなら走る......、迷いがなく、かつ正しい判断ができているからだ。一方、東アジアカップで原口元気、槙野智章、森脇良太を欠く浦和は、慣れないメンバーでオートマティズムを欠いていた背景はあったものの、やはりボールを受けてから次のプレイを考えているようなシーンが少なくなかった。

 そして世界レベルを体感したことで、具体的な選手の名前を挙げたのは、柏木陽介と山田直だった。その選手はMFジャック・ウィルシャー。9歳からアーセナルの下部組織に所属し、クラブ史上最年少の16歳でプレミアリーグデビュー。21歳にして10番を背負う彼のプレイについて、ふたりは同じような感想を抱いている。柏木が「真ん中でボールを運んでいくところは見習っていきたい。あそこで持ち運ばれると、守備は混乱するし、持ち運ぶスピードも速かった」と話せば、山田直も「(ボールを)はたくところと、自分が持ち運んで真ん中を割っていくプレイを見て、みんなで『あれは嫌だったな』と話していた。そういう嫌なプレイを、自分もできるようになりたい」と続いた。

 相手が嫌がるプレイ----。それはまさに、練習時から何度も聞かれるほど、ペトロヴィッチ監督が口酸っぱく選手たちに求めていることだ。そして真ん中でボールを持ち運ぶプレイも、ペトロヴィッチ監督が主にDFやボランチに求める『ミシャサッカー(ミシャはペトロヴィッチ監督の愛称)』のカギ。それができた試合は好ゲームになる一方、できない試合は相手を上回ることもできなければ、結果もついてこない試合になってしまう。的確かつ素早い判断で相手が嫌がるプレイ、すなわち前半10分のような攻撃を増やすこと。それが浦和のサッカーの肝であり、日本を制し、世界に近づくために必要なことと言えるだろう。

「世界のトップレベルの選手たちと体をぶつけあった経験は生きてくる」

 浦和だけでなく、日本代表でも世界レベルの相手と何度も対戦してきた坪井はこう話した。通用する部分と改善しなければならないことを肌で感じられたことは、間違いなく選手としても、チームとしても財産になるだろう。ただ、大事なことは言うまでもなく、この試合を経験したことではなく、これから。この経験を生かさなければならない。決して遠くない未来、アーセナルのような相手との真剣勝負の場で、堂々と渡り合い、そして勝利する日を迎えるために......。

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