プロサッカー選手育成のために必要な環境とは? (3ページ目)

  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

■頭で理解するだけでなく、競争を経験しておく

 現役時代、浦和で一緒にプレイしたエメルソン(現在はコリンチャンス)が「本当はブラジルでやりたい。だけどブラジルでは家族を養えるだけのお金をもらえないから、ここでプレイしているんだ」と言っていた。お金がすべてだとは言わないが、それもひとつの強さなのだと思ったし、「何がなんでも生き残ってやる」というたくましさを感じたことをよく覚えている。

 プロでは厳しい競争が待っているのだから、サッカーのスキルや体力だけでなく、エメルソンのように、勝ち抜いていくためのたくましさが必要になる。しかし、ユースで競争を経験していないと、ペットのウサギがいきなり荒野に放たれたらすぐに襲われて生き残れないのと同じで、すぐにつぶれてしまいかねない。

 試合に出るために、競争を勝ち抜いてレギュラーにならなくてはいけないし、そうでなければチームに残ることもできない。そのことを、頭で理解しているだけではなく、骨身に染みている、そういう選手でなければ、Jリーグはもちろん、さらに競争の激しい欧州リーグでやっていくことは難しいだろう。

 そして、「この技術を身につけろ」「競争を勝ち抜くたくましさを身につけろ」と言うだけで、選手がすぐにできるようになればいいが、そんなことはありえないのだから、コーチや監督は、トレーニングの過程で、選手にアプローチし続けなくてはいけない。

 また、「草食系」と言われるような、負けることに対して悔しいという気持ちがあまりない子どもは、プロのアスリートに向いていないといえる。「負けて悔しい。次は勝ちたい。うまくなりたい」という思いがあるから練習する。「たくさん努力した」と誰かに評価されるためではなく、成長して、うまくなって勝ちたいから練習する。

 もちろん、チームメイトとの支え合い、チームとしてのまとまりが日本の良さのひとつだと思うし、サッカーでは、助け合いやチームプレイという面も重要だ。しかし、世界のトップリーグになればなるほど、とんでもない才能を持っている人間の集まりなので、シビアな競争がある。そこでサッカーという競技を極めなくてはいけないし、競争を勝ち抜くタフさが求められる。

 以前、長友佑都(インテル)にインタビューをしたときに、「ここよりももっと上に行きたい」という強い気持ちが伝わってきた。長友のように、相手を凌駕してやろうという「勝負へのこだわり」を持っていなければ、身体能力が高くてスキルがあってもより高いレベルのプロではやっていけないということでもある。

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