好調マリノスの「顔」。中村俊輔が輝きを取り戻したワケ (2ページ目)

  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano MIKI

 守備がいいのは、まさにそのおかげ。コンディションが良くて、選手が動けるから、ボールへの寄せが速い。たとえそこを突破されても、次のエリアでの寄せも素早いため、相手に自由を与えていない。そのうえ、横へのスライドも速いから、この日のアントラーズは得意とするサイドチェンジからの仕掛けが影を潜めた。相手の攻撃の選択肢をどんどん消していって、非常に力のあるディフェンスをマリノスは見せていた。

 その守備力は、誰かがどうこうではなく、全員がハードワークしているからこそ、成り立っている。先発メンバーの半数が30歳を超えているため、どこかの時間帯でスッと動きが止まるシーンがあるかと思ったけれども、結局最後までチーム全体の運動量は落ちなかった。マリノスのコンディションの高さには、本当に驚かされた。

 一方、攻撃の中心である、中村俊輔が存在感を示しているのも、コンディションがいいからだ。守備の際、俊輔が体を投げ出してスライディングするシーンが何度もあったのは、その証拠。体調がいいから、気持ちも充実していて、攻守両面で高いパフォーマンスを発揮している。

 相手に潰されるシーンもほとんど見られなくなかった。それは、体が動いていることで、いい立ち位置がとれていることが大きい。周りもよく見えていて、相手のプレッシャーを受ける前にうまくボールをさばけている。チームの調子も良くて、気持ちに余裕がある分、配球の精度も増している。

 アントラーズのトニーニョ・セレーゾ監督が、「マリノスには、トップ下、ボランチ、そしてサイドと、いろんなところに顔を出して、それぞれの役割を高い水準でこなせるピースがあっていいですね」と、俊輔のことを指して語っていたけれども、まさにその通りの活躍を見せていると思う。

 こうして俊輔がキレているから、年齢の近いアントラーズの小笠原満男が俊輔に対してかなり厳しいプレッシャーをかけていったけど、あれはすごくいい傾向だな、と思った。というのは、ベテランががんばっている姿を見て、「オレらもやるぞ!」と、連鎖的に他のベテランも奮起するムードがあったからだ。そんなふうにして、多くのベテランが自身の存在を誇示するようになっていくと、リーグ全体がもっと盛り上がっていくと思う。

 さて、マリノスがこのまま上位争いに加わっていけるかどうかだが、これからは相手も研究してきて、そう簡単には点が取れなくなる。そこで、いちばんのポイントになるのは、やはりセットプレイだ。そのチャンスを得るためには、高い位置でどれだけファールをもらえるかが重要で、より積極的な仕掛けが必要になってくる。

 そういう意味で気がかりなのは、前線の選手の駒が少ないこと。小野裕二が海外に移籍して、齋藤学が負傷で戦列を離れていることもあるが、果敢に仕掛けていける"切り札"的な存在が、今のマリノスには乏しい。新たな人材の発掘を含めて、チャンスメーカーとなり得る選手が登場するかどうかが、上位で生き残るためのカギになりそうだ。

プロフィール

  • 名波 浩

    名波 浩 (ななみ・ひろし)

    1972年11月28日生まれ。静岡県藤枝市出身。1995年、ジュビロ磐田に入団し一時代を築く。日本代表では10番を背負い初のW杯出場に貢献した。引退後は、ジュビロ磐田のアドバイザーを務めるとともに、テレビ朝日『やべっちF.C.』などサッカー解説者として活躍

2 / 2

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る