【日本代表】ベンチワークから考えるザッケローニ監督のマネジメント能力 (3ページ目)

 これは浦和のときのオフト監督の話になるが、彼は毎朝必ず、クラブハウスで選手達が車を降りて、ロッカールームまで歩いていく途中に立っていて、コーチと談笑していた。そこで、選手ひとりひとりの表情を見ていた。ちょっと落ち込んでいるのか、笑顔なのか、何時ぐらいに来ているのか。選手に声をかけるわけではないが、そういうところでも情報を集めていた。

 試合後、監督は会見に出なければならないが、試合後のドレッシングルームの選手の振る舞いや表情を重視していたオフト監督は、自分の代わりにヤンセンコーチを必ずドレッシングルームに行かせていた。そして、選手の表情や、誰と誰が話をしていたかなどの情報を収集していた。

 また、オシムさんが日本代表監督を務めていた頃、よく2日間ぐらいの短期合宿をして、若手も含めて選手をたくさん呼んでいたが、これは、組織の中での各選手のパーソナリティを見るという狙いがあったのだと思う。オシムさんも、ザッケローニ監督のように何試合もJリーグを視察されていた方だから、選手のサッカーの能力や特長は十分わかっている。だから合宿では、プレイもさることながら、実はその選手がどういうパーソナリティを持っているか、代表チームのなかでどう振る舞うのかを知りたかったのだと思う。

 こうして多くの選手を見きわめ、ベンチも含めたチームのバランスをとることは監督の重要な仕事のひとつだ。これがテレビゲームであれば、選手の性格やパーソナリティは関係ないので、たとえばイブラヒモビッチのような気性の激しい選手をベンチに置いておいても問題はない。しかし、サッカーは生きている人間がやっているのであって、それぞれに感情というものがある。テレビゲーム感覚で、選手の組み合わせをしている監督は、絶対にいない。

 言い換えれば、選手は血の通った人間であり、感情が支配しているということを理解していなくては監督は務まらないということだ。だからこそオシムさんは、『人間は飽きる生き物だ』と言い、『トレーニングメニューを毎日変えなくてはいけない』と考えている。つまり『人間なのだから、選手が練習に集中できないのは当然だ。選手に集中させるためにどうしたらいいかを指導者は考えなければいけない』ということが前提になっている。理由もなく、ただ『これをやれ』と言って、暑い中ガンガン走らせて『なんで走れないんだ?』というようなことは絶対にしない。選手が練習に集中しないことを選手のせいにしていたら、指導者は考えなくなってしまう。選手それぞれがどんな人間かということを理解して接しないといけない。

 サッカーの監督は、常に周囲を観察する姿勢がないといけないと私は思っている。たとえば、試合中、ベンチメンバーはどうしているのか、コーチは何をしているのか、選手同士は誰と誰がしゃべっているのかなど、そういう情報はたくさん持っておかないとマネジメントできない。

 こうしたことをふまえて、さまざまなチームの監督がベンチにどんな選手を置いているかを、サッカーを見る目のひとつとして持っていると、観戦する楽しみの幅が広がるはずなので、注意してみてほしい。

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