【Jリーグ】39歳で全試合フル出場。鉄人・服部年宏が語る「サッカー選手としての『運』」 (4ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

 岐阜での2012年シーズン、夏場の連戦はさすがに堪(こた)えた。磐田時代のように環境面、とりわけ医療設備が整っているわけでもない。黒星を重ねて疲労は溜まる一方だった。しかし自分が悩むより、周りを引っ張り上げることを彼は優先した。攻守両輪でチームを叱咤激励し、セットプレイのキッカーを務め、ミドルシュートで得点も記録。終盤は後がない戦いだったが、ぎりぎりの勝負を心のどこかで楽しんだ。

 現役生活を彼は謳歌していた。実は今シーズン、田中誠、藤田ら磐田時代の戦友たちが次々とピッチを去っていった。そして12月には親交の深い中山が現役引退を発表した。

「ゴンからは引退発表の前に電話があって。『もうちょっとやってもいいんじゃない?』とは言いました。やっぱり寂しかったから。今年になって、自分が通っている先生を紹介したんです。もうちょっと早かったら、早く復帰できて現役を続けられていたのかな、と。普段のゴンはおとなしいというか、むしろ暗い人なのに、マスコミの前では引退会見を笑いにしちゃう。本当にすごい人ですよ」

 戦い続ける服部は、先人に敬意を払うように言った。

 来るべき2013年シーズン、彼はすでに岐阜でのプレイが決まっている。後輩選手からは恐れられる存在だが、「自分の子供(4歳)には、父親がサッカー選手だったことを覚えていてほしい。それまではがんばりたいですね」と優しい声音で言う父でもある。

「自分は選手として、(試合を)勝ち過ぎてきたのかも。それが最近は、本当によく負けている(笑)。だから、人生最後はとんとんになるのかな、と思いますね。今年は1年、岐阜でやってみて、リ・ハンジェ(MF)なんてすごく成長したと思うし、FC岐阜を少しでも強くしていきたいです。選手たちには勝ち方を覚えていってほしい。試合での波を小さくし、たとえやられていても、“いなしているんだ”と思えるように」

 岐阜の背番号6は、「若い選手は俺のことを上手いと思っているようではダメ。プロとして上を目指してほしい」と奮起を促す。リーダーとして範を垂れるプレイを続ける服部は道標になる。

「グラウンドに立っているとき、“たまには怒られたいな”と思うことがあるんです。さすがにもう無理かもしれませんけど(笑)。先頭を切ってきた俊哉とゴンが引退したのは寂しいですよ。でも、自分はあと2年、41歳まではやりたいと思っています。家族にはあっちこっち引っ越しして迷惑をかけているかもしれませんが、やれるところまでは」

 39歳は無邪気に顔を綻ばせた。現役でいる大切な時間を噛み締めながら。サッカーに賭ける気持ちの熱さは、今も冷めることがない。

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