【Jリーグ】39歳で全試合フル出場。
鉄人・服部年宏が語る「サッカー選手としての『運』」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

「続けられる理由ですか? 大人なのに、午前9時前からボールを蹴っていても怒られないから(笑)。サッカー選手は最高の職業で、ストレスはないですよ」

 彼はそう言って目尻を下げた。泰然とした様子は、"フットボールという道を究めんとする僧侶"のようにも映る。

「自分はきっと、サッカーが下手だから続けられるんだと思います。上手い人はできるからつまらなくなったり、感覚がずれてきたりして、やめちゃうんですよ。例えば名波(浩)は、ボール1、2個分だけパスがずれるだけで悩んでいたけど、自分はそもそもそこまで上手くない(笑)。でも、少しでも上達したい気持ちは強くあるので、続けるのが楽しいのかもしれないですね」

 フランスのサン・ドニでジネディーヌ・ジダンのような天才と対峙した男の指す「下手くそ」は、いわゆる下手くそとは意味が違う。

 磐田では10番を背負った天才MF、藤田俊哉の技術に目を瞠(みは)った。「前に来るな」と追い払われても、納得できたという。最高の技術を持った男たちと交わることで、その力をいかにして引き出すかに彼は喜びを見出した。

「若い頃の自分にタイムマシンで会ったら、『地味なままでいいよ』と声を掛けます。本当に上手い人とやれば自分のことがわかるから」と達観したように言う。

 では、サッカーをやめたい、という思いがよぎった瞬間はないのだろうか。年を取ることで俊敏性は落ち、勤続疲労によるケガに見舞われる可能性も高くなる。

「ヴェルディの3年目(2009年)は悩んでいましたね」と服部は打ち明ける。

「自分の場合は、足首のくるぶしがすごく痛くなって。いろんな人に診察してもらいました。(病院で)レントゲンやMRIを撮ったり、気功に通ったり、スピリチュアルまで(笑)。それでも原因がわからず......、知り合いに『御殿場にいい先生がいるよ』と言われ、思い切って行ってみたんです。そしたら、『(足の)指で立って』と言われました。足の五本指をグーのようにして立つんですけど、これが最初は腫れて痛かった」

 椅子から立った彼が、実際に指で立つ姿を見せながら説明を加えた。

「"これでダメなら無理"と思っていたほどです。でも、3カ月続けていたら、痛みが消えてピッチに立てるようになったんです。どうやら足のアーチが崩れたり、指が正しく使えない状態になっていたようで。だから、子供は簡単に指で立てるらしいですね。自分の場合、ずっとサッカーをしてきて矯正が必要で、正常な形に近づいたら痛みがなくなったようです」

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