【名波浩の視点】好調・広島、リーグトップの得点力を生み出す「仕掛け」 (2ページ目)

 これまでの戦いぶりについて、森保監督は「オレたちはいつもぎりぎりの戦いだよ」と言っていたけれども、攻撃に関しては昨季までのペトロヴィッチ監督のスタイルをそのまま継承。非常にスムーズな形ができている。そのうえで、ボールを奪われたあとの守備に関しては、森保監督の色づけがなされているように感じた。敵へのチェックの仕方であったり、ブロックの作り方であったり、その辺はかなり手を加えているようで、そうした守備力がこの試合でも光っていた。

 また、昨季まではほとんど手をつけていなかったというセットプレイに関しても、いろいろと策を練っているという。その効果が、磐田戦でも随所に見られ、CKやFKから何度か決定機が生まれていた。

 さらに、森保監督のベンチワークも今の好結果につながっていると思う。この試合のハーフタイムで、ベンチに控える森崎浩司をつかまえて話をしていたのだが、試合後、何を話していたのか森保監督に聞いてみると、「後半、必ずおまえの出るチャンスがあるから、きっちり準備しておけ」という指示を出していたという。何気ないひと言だが、前半ですでに交代枠をひとつ使っている状況で、選手に出場を確約する話はなかなかできないもの。しかもその後、予定外の2枚目の交代カードを切らざるを得ない状況になった。にもかかわらず、最後の交代枠で森崎浩を実際に起用して、結果的に彼がダメ押しとなる2点目を決めた。森保監督の、その采配と、人心掌握術というものは、本当に素晴らしいと思う。

 攻撃面においては、昨季15ゴールを挙げた李忠成の抜けた穴を心配する声もあったが、その点は、大宮アルディージャから加入した石原直樹が完全に穴埋めした。彼自身6ゴールを挙げているものの、際立つのは佐藤寿人のサポート。李は自分のシュートまでの形を思い描きながらプレイするタイプで、そのイメージを実現するために、昨季は寿人がスペースを空けたり、潰れ役になったりという仕事をこなしていた。しかし今季はその役割を、石原が忠実に実践。石原が常に寿人の存在を意識して、自分が潰れ役になって寿人にスペースを与えたり、自分がニアに入って寿人をファーサイドに逃がしたりして、寿人といい距離間をとって決定機を演出している。寿人が今季、早々にふた桁ゴールも記録できたのも石原のおかげだろう。

 加えて、石原のスターティングポジションは、トップ下の右サイドに位置し、そこから1トップの寿人にグーッと近づきながら、寿人とのいい関係を築いているのだけれども、その際同時に、3-4-2-1の「4」の右アウトサイドのミキッチの上がるスペースまで空けているのだ。それは無意識にやっていることかもしれないが、サッカーセンスの良さというか、人をうながす能力の高さは、湘南ベルマーレや大宮の頃から比べて一層レベルアップした感がある。

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