【Jリーグ】魅力あふれる湘南サッカー。
「ひたむきに走る3-4-3」で首位キープ

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Tsukida Jun/AFLO SPORT

 それでも、指揮官は、「いつも選手には『前へのエネルギーを出せ』と話しているのだから、彼らを尊重したい。やり方は変えたくない」と言い切る。

 はっきり言って、ミスも多い。

 ボールを奪った瞬間、チーム全体がスピードアップして攻め切ろうとするのだが、トップスピードで動きながらボールをコントロールするのは至難の業。結果、パスミスやトラップミスが頻発する。

 だが、湘南の選手たちは、ミスを恐れず「ひたむきに走る」。ボールを奪われたら、また奪い返せばいいとばかりに、自分たちのスタイルを貫こうとする姿勢は、見ていて実に気持ちがいい。

 開幕から続いた連続無敗記録は、第10節で水戸に敗れてストップした。それどころか、続く第11節も愛媛に敗れて連敗を喫している。今年の湘南は若いチーム(第12節の先発11人の平均年齢は23.36歳。対戦相手の甲府のそれを、4歳近く下回る)だけに、一度勢いが止まり、歯車が狂いはじめると、歯止めが利かない危険性もあった。

 しかし、だからこそ、一方的と表現して構わないほどに劣勢を強いられた第12節の甲府戦で引き分けた(1-1)ことは大きかった。

 ダヴィ、高崎寛之というJ2屈指の強力2トップを擁する甲府を相手に、途中、退場者を出しながらも、粘り強く戦い抜いた結果の連敗ストップである。曺監督が振り返る。

「内容で言えば、甲府のゲーム。そこで勝ち点1を持って帰れるのは、選手の頑張りがあったから。今までの湘南の試合とはテイストが違ったが、今シーズンのなかでは大きな試合だった」

 よく走るということは、当然、多くの体力を必要とするということでもある。ゴールデンウィーク中の連戦もそうだが、これから暑い夏を迎えることを考えれば、湘南にはまだまだ大きな試練が待ち構えているはずだ。

 それでも菊池は、「今年は不安よりも、『やれる』という気持ちのほうが強い」と話す。

「(連敗した)愛媛戦では、(ゴールデンウィーク中の過密日程を考えて)省エネというわけではないけど、自分たちの考えが後ろ向きになっていた。だから、相手にプレッシャーがかからず、2失点してしまった。うちのスタイルは、最初から飛ばして試合に入っていくということ。それは失わずにやっていきたい」

 現在の湘南のサッカーには、タイトロープを全力疾走するような危うさがある。ときに相手をねじ伏せる強さを発揮する一方で、長いシーズンを安定して戦おうと思えば、不向きなやり方だと言わざるをえない。

 しかし、だからこそおもしろい。「リスクを冒せ」とは、サッカーの世界でしばしば聞かれるセリフだが、実行に移すのは容易(たやす)いことではない。

 サッカーは、こうでなければつまらない。そう思わせてくれる魅力が、今の湘南には間違いなくある。

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