【Jリーグ】松田直樹追悼メモリアルゲームに結集した選手たちの思い (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 極めつけは、試合後の挨拶でメモリアルゲームを主催した安永聡太郎がマイクを握った時のことだ。話をしようとするたび、しきりにステレオからブヒブヒ、というノイズが混じった。
「直樹の悪戯(いたずら)だと思います。そういう奴なんです」
 安永が言うと、万雷の拍手が巻き起こった。

 その日、スタジアムは松田が愛したサッカーで人々がひとつになった。スパイクをはき続ける者も、脱いだ者も......そこに境界線はなかった。

 試合後のミックスゾーンでは、安永と同じくメモリアルゲームの主催者である佐藤由紀彦が清水商の先輩である田中誠に決定機を逃したことをからかわれていた。
「ヤス(安永)が決めたんだから、ユキ(佐藤)も決めないと! やっぱ、ヘディングは持っていないね」
 佐藤が苦笑を浮かべる。ふたりの間の空気は、子どもの頃にサッカーの大会に出た後の興奮=サッカーの原点のような愉悦に似ていた。それは松田への何よりの追悼だったのではなかろうか。

「でも、今年はやりますよ、俺は」
 佐藤はV・ファーレン長崎をJリーグに導くために死力を尽くすという。
「頑張れよ」
 2011年シーズン限りで引退を決めた田中は笑顔でエールを送った。

 なんでもないやりとりだったが、悪くない光景に見えた。サッカーはどんな形にしろ、続いていくはずだ。松田への想いも――。

「カズさんみたいに蹴っていたいな。サッカーボールを、ずっとさ」
 松田は夢見がちな表情で語っていたことがある。

「サッカーバカであることだけは、誰にも負けたくない。他はどんなことを言われたっていいんだよ。弱いし、調子に乗りやすいし、格好悪い。でも、俺はサッカーが好きだし、サッカーで自分を表現したいんだよ」

 松田は誰よりもサッカーで自分を表現した。そしてその心意気と生き様は、人々をつなげた。天国の彼は今頃、人懐こい笑みを浮かべているに違いない。


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