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サッカー日本代表のブラジル戦勝利の裏で忘れてはいけないこと 奇襲だけではワールドカップベスト8は難しい (3ページ目)

  • 中山 淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi

【カタールW杯を想起させる試合運び】

 試合の流れが激変したのは、後半からだ。森保監督はその要因について、ハーフタイムに選手たちが建設的にコミュニケーションをとってくれたことと、コーチ陣が「誰が誰に行く」といった明確な役割を伝えてくれたことを挙げている。要するに、前半からやりたくてもできなかった前からのプレスをあらためて整理し、やり直したのだった。

 4-3-3の相手に対する前からのプレス方法は、基本的に9月のメキシコ戦と同様だった。相手のアンカーは1トップの上田綺世が見て、ふたりのセンターバック(CB)にはシャドーの久保と南野拓実がプレス。両サイドバックにはWBの堂安と中村が、インサイドハーフにはダブルボランチの鎌田大地と佐野海舟が、そして3トップには3人のCBがそれぞれつくという、いわゆるオールコートマンツーマンだ。

 そのかたちが明確に見えたのが、後半に入って47分のブラジルのゴールキックのシーンになるが、しかしそれ以降、日本のオールコートマンツーマンが完全にハマっていたシーンは意外と少なかったのも事実だった。

 とはいえ、2点をリードして以降、日本のプレッシャーを感じることなく、余裕を持ってボールを支配しながら前半を締めくくっていたブラジルを慌てさせるには、選手全員がプレーの矢印を前方向に向けただけで十分だったのかもしれない。

 実際、予定どおりのハメ方ではなかったものの、52分には上田がプレッシャーをかけた自陣ボックス内の右CBファブリシオ・ブルーノ(14番)が、左CBルーカス・ベラウド(15番)にプレスをかけていた南野に信じられないようなプレゼントパスをして日本の1ゴール目が生まれ、そこから試合の流れは大きく変わった。

 以降は、試合後にカルロ・アンチェロッティ監督が「最初のミスでチームはコントロールを失い、メンタル面で落ち込んでよくない結果を招いた」と振り返ったように、攻守にわたってブラジルのプレー精度が大きく乱れた。そして試合の流れを取り戻すことができないまま、わずか19分間で逆転を許すに至っている。

 その展開どおり、後半の日本のボール支配率は最初の15分間が50.7%で、ブラジルが我を失っていた60分から75分までは63.0%に上昇。ラスト15分間で23.5%に低下したのは、リードした日本が選手交代も含めて守備に軸足を移し、試合を締めくくったからだ。

 日本が後半に見せた攻撃方法は、GK鈴木彩艶を含めて後方から躊躇なくロングボールを多用して敵陣で相手にプレッシャーをかけ続けることと、自陣でブロックを作ってボールを奪ってからは縦に速いカウンターを仕掛けるというものだった。

 その結果、敵陣でのくさびの縦パスは1本もなかった代わりに、クロスボールは9本を記録。途中出場した伊東純也がハイパフォーマンスを見せたこともあり、そのうち成功が7本と、ぐっと成功率を上昇させている。それも含めて、まさしくカタールW杯のスペイン戦を想起させる試合運びだったと言っていい。

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