サッカー日本代表の10月ブラジル戦、セルジオ越後が「負けてもいいから、リスク覚悟で点を取りにいってほしい」と語る理由
セルジオ越後の「新・サッカー一蹴両断」(18)
セルジオ氏が期待を寄せるのは三笘(写真)と久保、ドリブルで仕掛けられる力を持ったふたりだ photo by AP/AFLO
アメリカ遠征(vsメキシコ、vsアメリカ)を終えたサッカー日本代表。強化試合は今後も続き、10月にはパラグアイ戦、そして、大注目のブラジル戦が待っている。過去、A代表同士の対戦では一度も勝ったことがないブラジルを相手に、森保ジャパンはどんな戦いを見せるのか。近年低迷する"王国"の現状を含めて、セルジオ越後氏に見どころを聞いた。
【勝つに越したことはないが......】
10月のパラグアイ戦とブラジル戦、国内開催とはいえ、アメリカ遠征に続いて、日本代表の現在地を知る、よいマッチメイクだと思う。日本は1対1で積極的に仕掛けてくる、個の強い国や選手を苦手としているだけに、南米勢との対戦は貴重なテストになる。
まず注目したいのは、アメリカ遠征で1点も取れなかったチームが、ホームの2試合でどうやって点を取るか。今回は勝敗よりも重視したい。
もちろん、ここで2連敗したら、それこそ「ワールドカップ優勝」どころではなくなるし、来年のワールドカップ本番に向けての盛り上がり、また、広くサッカー人気という意味でも厳しい状況になってしまうので、勝つに越したことはない。とはいえ、一定以上の強さの相手との親善試合で、守って守ってカウンターで勝ったとしても意味はない。単に守るだけではなく、点を取らないことにはワールドカップは勝ち上がれないわけだから。
パラグアイは伝統的に守備が売りのチーム。6位通過した今回のワールドカップ南米予選でも、18試合で14得点(10チーム中7位タイ)と攻撃はイマイチだったけど、失点は10(同2位タイ)と相変わらずの堅い守備を見せた。
そして、ブラジルだよ。過去の対戦成績は、13試合行なって日本の2分け11敗と、一度も勝ったことがない相手だ。まあ、日本が勝った"マイアミの奇跡"(1996年アトランタ五輪)の時のブラジル五輪代表は、A代表みたいな豪華なメンバーが揃っていたけどね。
ただ、繰り返しになるけど、今回はブラジル相手といえども、守って守ってカウンターで勝っても、あまり意味がない。アトランタ五輪当時の日本は、まだワールドカップ本大会に出たことがなかった。ワールドカップ上位進出を目指す今とは状況が違う。だから、負けてもいいから、リスク覚悟で点を取りにいくサッカーをしてほしい。むしろ、ヘタに守り勝って、「これでワールドカップ優勝もいけるぞ」と勘違いするのが一番怖い。
ブラジルには、昔のような圧倒的な強さはない。特に攻撃的なポジションのいい選手が少なくなったね。それには明確な理由があって、ストリート育ちのサッカー選手が減ったからに尽きる。昔はデコボコのグラウンドで大人も子供も関係なくプレーし、また、遊びのなかで自然と技術を身につけていたのに、時代の変化とともに、サッカーは月謝を払って教わる習い事になってしまった。特に、大都市ではそうだ。
だから、教科書どおりのプレーができる選手は増えたけど、次は何をするのだろうという期待感を持たせてくれる、規格外の選手が出にくくなっている。ただ、贔屓(ひいき)目を抜きにしても、ヴィニシウスのように強烈な個性、テクニックを持った選手はまだいるし、チームとしても、依然としてワールドカップの優勝候補の一角に挙げられるくらいの強さはある。
今回の南米予選では、監督交代を2度するなど苦戦が続いた(5位通過)。でも、今年5月にブラジル代表史上初の外国人監督となるカルロ・アンチェロッティを迎えてからは、堅い守備をベースに持ち直している。手厳しい国内メディアも「まあまあ」と評価している。日本の力を知る相手として不足はないだろう。
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著者プロフィール

セルジオ越後 (せるじお・えちご)
サッカー評論家。1945年生まれ、ブラジル・サンパウロ出身。17歳の時に名門コリンチャンスのテストに合格し、18歳の時にプロ契約を結び、MF、FWとして活躍した。「エラシコ」と呼ばれるフェイントを発案し、ブラジル代表の背番号10を背負った同僚のリベリーノに教えたことでも有名。1972年に日本リーグの藤和不動産(湘南ベルマーレの前身)から誘いを受け、27歳で来日。1978年から日本サッカー協会公認の「さわやかサッカー教室」で全国を回り、開催1000回以上、のべ60万人以上を指導した。H.C.日光アイスバックスのシニアディレクター。日本アンプティサッカー協会最高顧問。公式ホームページ【http://www.sergio-echigo.com】

