「バットマン」と呼ばれた宮本恒靖。話題のフェイスガードの知られざる真実 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

 とはいえ、普段は着けないものを着けてプレーするのである。何の違和感もなかったはずはない。

 では、どれほどの影響があったのか。それを疑似体験するいい方法があると、宮本は言う。

「ちょっと立ってもらっていいですか」

 宮本はそう切り出すと、「手をこうやって目のところに当ててみてください」と言い、左右両手の親指と人差し指でそれぞれ小さな輪を作り、それをマスクに見立てて目元に持ってきた。

 言われるがまま"疑似マスク"を装着してみると、なるほど視野は一気に狭まり、目の前に立つ人の足元は見えなくなる。

「何も着けていない時に見えているボールが、これを着けた瞬間消えてしまうので、そこは難しいというか、ふだんとの違いを感じながらのプレーでした。上に上がったボールも同じで、パッと上がったら(間接視野では)見えなくなるので、いつもより視線を上げなければいけなかったんです」

 それでも、着けずにやるという選択肢はなかった。

「やりにくいけど、とにかくこれを着けて試合に出られるのであれば、それにかけるという思いでやっていました」

 そして、宮本は冗談めかし、こう続けた。

「鼻を折ると、(折れた鼻骨を元の位置に)戻す作業がすごく痛いんですよ。だから、それはもうやりたくなかった。これを着けずにやると、またすぐに折れちゃう可能性があったので、それでまた鼻を元に戻すのは嫌だったんですよね。ただもう、それだけです(笑)」

 また、バットマンになぞらえて有名になった代物も、実はもともと"白"マスクだったというのは、知る人ぞ知る秘話である。

 チーム内で「白だと弱っちぃな」との声が上がり、市販のマジックインキで黒く塗ることになったというのが、その真相だ。

「マスクは2個あったんですよね。ベルギー戦前のウォーミングアップの時に、エキップメントのスタッフに頼んで黒く塗ってもらったんですけど、もう一個のほうをつけてアップはしていたので、たぶんそこでは白いのを着けていたと思います。その時の写真が残っていれば、レアですね(笑)」

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