久保建英「なんで出してくれないのか」。ブラジル戦での悔しさをバネに代表初ゴールは生まれた (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

周囲との呼吸が合って生まれたゴール

 久保は、そのように各所でプレーの渦を作った。ライン間でボールを受け、攻撃を牽引。ほとんど自由に動き回り、左で三笘薫とのパス交換でも崩している。面白いことに、ボールに触るたび、プレー精度が上がっていった。

 なぜ居心地がよさそうにプレーすることができたのか。

 その理由は、この日のチームの闘い方と選手のキャラクターが、少年時代を過ごしたFCバルセロナに似ていたからかもしれない。

 ガーナ戦の森保ジャパンは「ボールプレーありき」だった。個人が勝負し、コンビネーションを使い、高い位置で攻め続けた。人とボールが流動的に連なり、攻撃こそ防御なり、になっていた。

 両ウィングとインサイドハーフが近い距離でプレーするのはひとつの基本だが、バルサではふたつのポジションは親和性がある。昔で言えばアンドレス・イニエスタ、今で言えばガビが、どちらのポジションも担当する。ポジションに束縛されず、空間とタイミングが要求するプレーを感覚的に連動させ、主体的に相手を凌駕するのだ。

 久保の代表初ゴールの場面は、その結実だった。左サイドで三笘が1対1を仕掛け、縦に抜き去って折り返す。このウィングプレーは、まさにバルサの伝統である。見逃してはならないのは、トップの上田が突っ込んでラインを押し下げ、背後にスペースを空けている点で、攻撃の呼吸が合っていた。おかげで久保は自然に匂いを嗅いで入り、左足でボールを突き刺した。

「(今までの代表で外した時のように)珍しくテンパっていなかった。中に入ったら、出てくる感覚はあった」

 久保はそう振り返ったが、お互いの感覚が合っていた。

 実は開始早々、久保は右足を削られ、交代も考えたほどだったという。しかし、W杯メンバー入り争いを考えたら、先発の機会を潰せない。90分間、やり切ることでタフさも見せた。

 もうひとつ、彼がゴールを決められた理由を挙げるなら、逆境での強さだろう。

「(ブラジル戦では出場機会をもらえず)正直、めちゃくちゃきつかったですね。なんで出してくれないのかって。他の人もそうだろうけど、自分が出たらもっとやれるのにって。でも試合に出ていないと、どれも負け惜しみになるから、まずは練習から気合を入れてやっていこうと。それが今日、味方してくれたのかもしれません」

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