ファルカンが語る日本代表監督時代の思い出。「こんな代表は世界のどこにもない」 (2ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

ありがたかったカズの存在

 少なくとも年に4、5回のアウェー戦を経験する必要がある。知らない土地、知らないサポーターの前で、知らないチームと対戦する。試合は負けても構わない。大事なのは困難に直面することで、選手としてチームとして成長することだった。難しい相手と戦うビジョンを持ってほしかった。こうした遠征を通じて、彼らはメンタル面でもより強く、より賢くなって帰ってくることになるだろう。私は彼らをアジアのなかだけでなく、広い世界に連れて行きたかった。

 残念ながらそれを実現する時間が私にはなかったが、もしあのまま監督を続けていたなら、必ずや実現させていたことだろう。

 私は日本の言葉をまるで知らず、それが大きな障壁になるのではないかと懸念したが、実際には問題やストレスを感じることはほとんどなかった。私のスタッフがブラジル人だったからだけでなく、選手の何人かはポルトガル語を片言でも理解してくれたからだ。またサッカーを理解し、選手の人となりと日本の文化をよく知るすばらしい通訳にも恵まれた。通訳の向笠直さんにはこの場を借りて改めてお礼を言いたい。

 また、何よりありがたかったのはカズ(三浦知良)の存在だった。カズは私にとってギフトだった。彼はサントスでプレーした経験があるので、ポルトガル語がわかるだけでなく、私や他のブラジル人スタッフのメンタリティを理解してくれた。そんな選手がチームの中心であったことは私の大きな助けとなった。彼は時にピッチ内の通訳となり、私の言いたいことを、より具体的な形で他の選手たちに示してくれた。

 カズが今でも現役なのは本当にすごいことだと思う。カズは人間としてもすばらしい人物だ。もちろん選手としても特別で、マリーシアをはじめとするサッカーに必要なことをブラジルで学んでいた。いつも明るくフレンドリーで、自分がサッカーを知るだけでなく他の選手にもいい仕事をさせる方法を知っていた。日本はこのようなスターを持てたことを幸運に思わなければならない。カズが日本サッカー史の、いや、アジアのサッカー史のなかでも最高の選手であることは疑いようもないだろう。

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