新生なでしこ、殻を破るまでは至らず。だが「泣いた日々」を乗り越え植木理子がエース級の活躍 (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko
  • photo by 2022 Asian Football Confederation (AFC)

【目指すゴールの形はひとつ】

今大会で希望となったのが植木の成長である。5ゴールはチーム最多で途中出場となったベトナム戦以外のすべてでスコアをマークしている。大量得点が多かった今大会だが、植木がもたらしたゴールは特に意義深い。

最初のゴールは池田太監督に代わって以降なでしこジャパンが最初に挙げたメモリアルゴールであり、連続ゴールの口火を切ったもの。韓国戦で見せた開始32秒でのゴールは、その後の日本の戦いを有利に進める絶対的な要素となった。出場権獲得のかかった準々決勝のタイ戦では、ドリブルから豪快に決めて、実力を証明してみせた。そして準決勝の2ゴールは言うまでもない。

2019年の女子ワールドカップの最終メンバーに選ばれた植木がケガで代表から離脱したのは、すでにフランス入りした後のことだった。

「悔しくて受け入れられなかった。帰国後も夜中の2時、3時に目が覚めて泣いている日々でした」

 自身が一番の目標にしていた世界大会でのプレーはすぐ目の前だった。そこから2年、U-20時代にともに戦った池田監督のもとで再びなでしこジャパンに戻ってきた。この2年、持ち前の"ナニクソ精神"で苦手だった攻撃の作りの面やボールを収めるプレーも自分なりに鍛え上げてきた。

新生なでしこジャパンの初海外遠征では決定力不足に苦しめられ、1分1敗ノーゴールに終わった。初戦のアイスランド戦後に体調を崩し、早々にピッチから遠ざかってしまった植木だったが、自分自身の責任のようにこれを捉えていた。決定力は簡単に身に着くものではないからこそ、試合勘を徹底的に磨かなくてはならない。今大会ではコンディションもよく、一戦ごとにゴールへの嗅覚が鋭くなっていったのは数字が示す通りだ。

植木には常に目指すゴールの形がある。それが植木の言う「ゴリゴリのゴール!」だ。

「ベレーザだとごっつあんゴールとか最後に触ってゴールとかが多いんです。個人で崩してとか、苦しい時間帯に打開して決めるっていうのはチームのやり方とは違うかもしれないけど、FWとしては絶対に必要なことだと思っています」(植木)

 今大会ではこの想いが詰まったゴールの連続だった。

岩渕真奈(アーセナル)が大会前にPCR検査で陽性反応が出て隔離措置を受けた影響で、万全のコンディションまで戻す時間がなかった。エース不在の穴を埋めるだけでなく、肩を並べるところにまで成長してみせた植木だが、本人は準決勝後半のプレーを大きく悔やむ。

「自分には後半にシュートチャンスが何本かありましたし、そこで決めていれば延長PKにはならなかった。まだまだ未熟さを痛感した大会でした」(植木)

「チームを勝たせるゴールは決められていない」と何度も繰り返した植木。ゴール数ではなく、チームを勝利に導くゴールを決めるのが仕事だと、今後も自分自身に問い続けていくのだろう。まだ22歳。植木が見せた今大会のパフォーマンスはなでしこジャパンが得た確かな光だった。

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