「今考えると、すごい話」と明神智和。日本代表の歴史的な勝利後、ある人物の登場にロッカールームでの盛り上がりは最高潮に達した (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Getty Images

「今考えると、すごい話ですよね(笑)」

 当時の小泉首相と言えば、その前年、大相撲5月場所の表彰式で横綱・貴乃花の優勝を讃えた、「感動した!」のひと言が流行語となるほど話題になっていた。

「それがあったので、中山(雅史)さんが『総理、感動しましたか?』って聞いたら、小泉首相が『感動した!』って(笑)」

 その瞬間、ロッカールームにはワーッと歓声が上がり、試合後の盛り上がりは最高潮に達した。

「あの空気感っていうのは、ホント、あの場にいた人たちにしか味わえないものでした」

 振り返れば、あの夏、日本中が"ワールドカップ・ハイ"だった。

「いや、もう、ホントに、異常な事態だと選手もみんなわかっていて(苦笑)。テレビをつければ、朝から晩までワールドカップでしたからね。

 ただ事前合宿も含めて、隔離されて落ち着いた環境のキャンプ地で過ごせていたので、異常だとわかりながらも、みんな冷静に、客観的に、そこは見ることができていました」

 結果的に、日本はグループリーグ突破の使命こそ果たすも、決勝トーナメント1回戦でトルコに0-1と敗れ、ベスト16敗退で大会を終えることになる。

 開催国としての責務は果たした。「悪くない結果を出せたとは思います」。明神もそう言って、当時を振り返る。

 だが、言葉とは裏腹に明神の胸に今も残るのは、目標を達成できた満足感より、大会前には想像もしていなかった悔恨だった。

「日本は目標が決勝トーナメント進出だったために、グループリーグを突破したあと、そこからさらに上を目指すハングリー精神に欠けていた。それをもっと持てていたら......、その悔しさは自分自身、ものすごく感じます」

 決勝トーナメント1回戦の相手はトルコ。それを勝ち上がると、準々決勝ではスウェーデンとセネガルの勝者と対戦することが決まっていた。

 もちろん、日本にとって楽に勝てる相手などひとつもないが、とはいえ、トーナメント表の日本の山には世界に冠たる強豪国の名もなかった。組み合わせに恵まれた、はずだったのだ。

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