「自分のチームからJリーグのクラブに入る選手が出てくればうれしい」三都主アレサンドロの今 (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by Press Association/AFLO

 実はこの試合で、三都主(当時は日本国籍取得前の「アレックス」だった)は前半35分に相手選手の腹を蹴り、一発退場となっている。攻撃の切り札を失うことがなければ、清水はPK戦突入前に決着をつけられたかもしれない。三都主にとっては思い出したくもないような試合、だったはずである。

「あの試合があったから、僕は気持ちが強い選手になれたんじゃないかと思うんですよね。その後はレッドカードをもらうこともなかったですし、自分をコントロールすることもできたと思うし。そういう悔しい場面が成長につながったんじゃないかなと思うんです」

 三都主は前向きな言葉を口にする一方で、こうも続ける。

「でも、『もし人生をやり直しできて、もう一回戻れるとしたら、どの場面に戻るか』って言ったら、僕はトルコ戦とか、ジュビロ戦とか、そういう場面ですよね」

 もちろん、時計の針を戻すことはできない。かつては快足で鳴らしたドリブラーも多くの経験を糧に、今は育成という新たな道を進み始めている。

 三都主が、現在のブラジルでの活動について教えてくれた。

「2015年にブラジルに帰ってきてプレーしたあと、僕が生まれた町に、何かサッカーで貢献したいなっていう気持ちがあって、アカデミーを開きました。今年で5年目になったんですけど、たくさんの子どもたちにサッカーの楽しさや厳しさを教えてきました。

 そうやってずっと育成指導をしていると、トップレベルの子どもたちが集まってくるようになって、僕が住むパラナ州で一番大きな大会の出場権を獲得することもできたんです。

 今年2021年になって、その子たちの成長が上につながるプロのトップチームを作ることもできました」

 オンライン取材の画面の向こうでうれしそうに話す三都主の胸には『ASB』と記されたエンブレムが見える。

「アルコ・スポーツ・ブラジル(Aruko Sports Brasil)っていうんですけど、アルコという日本の会社と組んでブラジルでチームを作りました。今は若い年代の選手たちにチャンスを与えながら、経験のある選手も混ぜて、チーム作りをしています。

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