「田中碧のメリット」とは何か。日本代表を救う傑出したポジショニング能力 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 昨シーズン、川崎フロンターレはリーグ戦で3試合しか負けていなかったが、3試合とも田中が先発から外れていたのは、偶然ではないだろう。

 戦術的なサッカーインテリジェンスは、当時から群を抜いていた。

<プレーに道筋を与えられる>

 その点ではアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)に近い。自分がどこにいればボールをもらえて、どこにボールを預けたら、その後のプレーが動き出すのか。それを承知している。あるいはどこに立てば、相手が嫌がり、守備で敵のプレーを封鎖できるのか。そんな攻守一体を続けることによって、チーム全体に好循環を促せるのだ。

 オーストラリア戦も、常に味方にパスコースを与え、アドバンテージを与えるようなパスを供給していた。W杯予選では初めて採用した4-3-3のインサイドハーフという難しいポジションだったが、川崎時代はアンカーもこなしており、ピッチのどこにいても、ポジションの正しさや判断は変わらないのだろう。

 日本が同点に追いつかれてからのプレーは際立っていた。

 たとえば、右サイドを中心にプレーの渦を作るようにパスを重ねてリズムを作り、味方のパスがずれて奪われそうになっても、再び回収した。攻撃イコール守備だった。また、サイドから折り返されたボールに対し、バックラインの前でこぼれを拾うと、間髪入れず、背後の右サイドの選手にダイレクトパス。カウンターを演出しただけなく、後方からのフォローで攻撃を後押ししていた。

 極めつけは75分の場面だろう。田中がバックラインにプレスをかけ、そこではめて味方が奪い返したボールを自身が受ける。遠藤に素早く展開し、伊東へ渡り、決定機になった。ブロックされたボールを再び拾ったのは田中で、そのシュートは外れたが、やはりポジションのよさが目立っていた。敵味方を感じ取り、正しい位置取りができているからこそ、"ボールに愛される"のだ。

 もちろん、90分のなかでいくつかミスもあった。たとえば、相手のロングボールを吉田麻也がヘディングで跳ね返したボールに対して、バウンドを見誤ってポジション的優位を失うと、相手に高さで負け、ショートカウンターから決定機を与えてしまうシーンがあった。中盤では五分のボールに負けない強度が、高いレベルでは求められるはずだ。

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