中村憲剛「オレが持ったら?」岡崎慎司「裏っすよ!」。ふたりの約束が生んだW杯最終予選の劇的ゴール

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by AP/AFLO

 そこには伏線もあった。

 中村憲「オレが持ったら?」

 岡崎「裏っすよ!」

 当時、仲がよかったふたりは顔を合わせるといつも、冗談交じりにこんな掛け合いをしていたという。

「この試合の直前も(選手入場を待つ)階段のところで、憲剛さんにいつものように振られて、『裏っすよね。お願いします!』みたいな感じで言っていたら、ホントに(パスが)来た(笑)。だから、あれは明確に意図したゴール。憲剛さんを信じて走っていたし、憲剛さんにも自分のダイアゴナルの動きを見てもらっていました」

 実は当時、中村憲もまた、岡崎と似た立場にいた。

 中村憲は、それまでの最終予選5試合で先発出場はなし。ベンチで試合終了の笛を聞くことも多く、途中出場が1試合あるだけだった。

 そんな28歳のプレーメイカーも、直前のキリンカップでゴールを決めるなどチャンスを生かし、大事な試合で先発メンバーの座を勝ち取っていた。

 ワールドカップ出場を決める値千金のゴールは、いわば"同志の共闘"が生んだゴールだった。

「今聞くと、そうかと思いますけど、僕、ホント自分のことしか考えていなかったんで、憲剛さんがそういう立場だったなんて思っていなかった。もう無我夢中で、そんなことまで考えられる選手ではなかったんで(苦笑)。

 でも、僕は『この人だったら出してくれる』と思って走っていましたし、利害が一致じゃないですけど、そういう意味では憲剛さんにしても、たぶん『いい犬、見つけたわ』って感じだったんじゃないですかね。『パス出すからとってこい!』みたいな(笑)。

 けど、サッカーってそういうものだと思います。自分にとって相性が合う合わないはあると思うし、僕にとって憲剛さんはなくてはならない存在だった。憲剛さんも当時そう感じてもらえていたなら、うれしいし。仲もよかったので、よく話をしていたし、僕に対するアシストも、たぶん憲剛さんが一番多かったんじゃないのかな」

 ワールドカップ出場が決まった瞬間は、「やっぱり、うれしかった」と岡崎。負けていても不思議はなかった苦しい試合で日本を救ったのは、間違いなく彼だった。だが、自身のゴールについては、「ワールドカップ出場を決めたゴールって、よく言ってもらえるんですけど、僕が決めたっていう気持ちはなかった」というのが、本音だ。

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