なでしこジャパン、決勝トーナメントでのキープレーヤーは誰か。「化ける」候補の選手は2人いる (2ページ目)

  • 早草紀子●取材・文・撮影 text&photo by Hayakusa Noriko

 それぞれの想いを抱いてチリ戦のピッチに立っていた2人。田中は後半からの出場だったが、「みんなに救われた初戦だったので、取り返そうという思いでした」という意気込みはプレーからも伝わってきた。そしてそのゴールをアシストしたのはやはり岩渕だった。

 相手DF2枚を背負いながら、間を通して背後に流したボールを田中がしっかりと決めた決勝弾。勝敗が決すると田中は静かに、けれど力強く何度も小さなガッツポーズを繰り返した。

 岩渕が抱え込んでいたプレッシャーの重さは、チリ戦後に「ここで負ける訳にはいかなかった」と声を詰まらせたことに集約される。おそらくチームの成熟度で言えば、他国と日本との差は決勝トーナメントに滑り込んだ順位そのままだろう。

 だが、今大会まだなでしこジャパンは一度も"化け"ていない。岩渕は2011年以降、何度もがけっぷちの状況から"化ける"チームの中に身を置いてきた。だからこそ、どのチーム、選手にもその可能性があることを知っている。

「自分が(ゴールを)決めるのはうれしいけど、より確実に決めてくれるなら他の誰かでもいいんです」

 大会前、岩渕はこう話していた。自分が消されれば誰かが生きる。「それで勝てるならそれでいいのだ」と。チリ戦はその"誰か"は確実に田中だった。プレッシャーに押しつぶされそうになりながら、もぎ取った勝利の瞬間、顔を覆った岩渕。その直後、田中としっかりと抱き合った。その表情から2人が抱えていたものが見えた気がした。

「(なかなかゴールが生まれず)焦りもあったけど、続けることしか自分たちにはできないし、まだここからだけどホッとした」とは岩渕。

 その小さな背に負うものを、チームメイトと分け合うべきだろう。ピッチ上でも同じだ。最もゴールの香りがする岩渕が存分に暴れられるように、中盤まで落ちてきて彼女が担っているものを少しずつ周りが受け持てばいい。ここからは一発勝負。チームとして何を生かすのか、全力で戦うしかない。

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