小野伸二の言葉に泣き崩れた石川直宏。五輪への真摯な思いは生き続けた

  • 小宮良之●文 photo by Komiya Yoshiyuki
  • photo by MEXSPORT/AFLO

<自分は必要とされないのか>

 その思いに打ちひしがれ、シャワーに打たれながら、泣き続けた。自分がどうにかなってしまいそうだった。五輪という舞台、人生を賭けていたのだ。

 しかし水に打たれる間、正気を取り戻した。「共に戦った仲間たちと、試合を見にきてくれた人たちに挨拶をしないといけない」。すぐに着替えてベンチに戻る。試合後、どうにかゴール裏で挨拶をすませた後だ。

 ロッカールームへの帰り道、オーバーエイジでの参加で、酸いも甘いも経験していた小野伸二に声をかけられた。

「交代しちゃったけどさ。今日の試合では、お前のプレーが一番良かったよ。だから、自信を持てって! オリンピックは終わっちゃったけどさ、A代表がある。俺はそこで待ってるから!」

 その言葉に、石川はどうしようもなく泣き崩れたという。自分のことを見つめ、認めてくれる人がいた。その喜びだった。

 石川は2009年、Jリーグでベストイレブンを受賞している。FC東京の中心選手として16シーズン、戦いに挑み続けた。W杯には出場できなかったが、代表のユニフォームも身に纏っている。真っ直ぐに自分と対峙し続けたプレーは、見る者の胸を打った。

 成功であれ、失敗であれ。五輪にかけた真摯な思いは、体の奥で生きることになるのだ。
(つづく)

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