小野伸二の言葉に泣き崩れた石川直宏。五輪への真摯な思いは生き続けた

  • 小宮良之●文 photo by Komiya Yoshiyuki
  • photo by MEXSPORT/AFLO

◆大久保嘉人が「喧嘩腰」で挑んだリーガ。相手の態度が許せなかった

「イタリアが強いとかなんとか言われていたけど、俺は(前評判は)そこまで関係なくて、自分がゴールを決められたら、それでチームは勝てると思っていたし、世界からも注目されると思っとって。タカさん(高原直泰)がオーバーエイジで来る話やったけど、誰がきても自分が出て、点を決めることしか考えてなかった(高原はエコノミー症候群でメンバー入りしなかった)。やってやるっていうのしかなかったよね」

 大久保はいつだって、その気概で突っ走っていった。二度のワールドカップに出場し、Jリーグで3年連続得点王を受賞。強敵と戦うたび、彼は強くなってきた。

「サッカーは成功した時には、驚くほど達成感がある。ダメやったら、ずしっと重いもんが心に覆いかぶさってくる。そのどっちかよ。でも、難関を超えることで俺は強くなってきた。その瞬間が楽しいんよ。だから、サッカーをやめられん」

 39歳になった今も、大久保はセレッソ大阪に在籍し、リーグ歴代最多得点記録を更新している。

 アテネ五輪では、激情を持て余した男もいた。気鋭のサイドアタッカーとしてメンバー入りした石川直宏は、パラグアイ、イタリア戦と出場機会がなかった。すでに消化試合となっていたガーナ戦は先発出場に燃えていた。

「出られなかった2試合分も走り切ろうと思っていました。自分の全てを表現する、と意気込んで。悪くない手応えもあったんですが」

 拙著『アンチ・ドロップアウト』(集英社)の取材で、石川はそう回想していた。

「(後半18分)交代を命じられた時、自分でも制御できないような怒りが突如として湧き上がってきたんです。"なんで俺が交代に"って。(自分が)悪いとはわかっているんですけど、できていたつもりだったし、見てもらえなかったんだって。その気持ちが抑え切れず、頭が混乱して、誰と交代したかも覚えていないですね」

 石川はロッカールームに戻って、わんわん泣いたという。自分が許せず、ロッカーを拳でひしゃげるほど殴った。いつも礼儀正しく、謙虚で、優等生然とした彼には珍しい。驚いたスタッフからシャワーを浴びるように命じられた。

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