スペインの予想以上だった日本の守備の成熟。敵将の評価が高かった選手は? (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komoiya Yoshiyuki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

◆日本と優勝候補スペイン。「善戦」ではなく「倒す」ために必要なのは何か

「久保がスペインを驚かせ、堂安のスーパーゴールが決まった」

 そんな表現も使われている。

 ただ、久保以上にスペインが予想外だったのが、攻撃以上に日本の"撓(たわ)む守備"にあった。

「スペインは前半、簡単にアタックゾーンまでボールを運んでいた。しかし、敵陣深くまでは崩しきれていない」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、攻めあぐねていた描写をしている。

 日本は最終ラインが下がりすぎず、巧妙に敵を引き入れながらプレーを制限し、被害を最小限にしていた。各ラインが距離感を緊密にし、塹壕(ざんごう)を掘って迎え撃ち、奇襲にも転じている。たとえボールをつなげられても、焦らず、粘り強く対応していた。

 例えば左サイドのダニ・オルモはユーロ2020でも活躍したアタッカーで、スペインはそこを突破口にしようとしていた。ところが、堅く閉ざされた門に立ち往生。フランス・マルセイユで円熟に達した酒井宏樹の強度と精度の高い守備を前に、ほとんどシュートに持ち込めなかった。

「サイド攻撃でオープンな展開になったところで、日本のカウンター攻撃を浴びていた。我々はよく対処していたが、相手のうまさ、スピードに苦しんだのは事実だ」

 スペインを率いるルイス・デ・ラ・フエンテ監督はそう言って、ひとりの日本人選手の名前を挙げた。

「我々スペイン人にとって一番有名なのは久保だが、今日はセンターバックの冨安(健洋)が重要な選手であることがわかった。国際レベルのゲームで、技術を出す力に長けている。攻撃センスも感じさせた」

 冨安は守備の美学のあるイタリアでプレーを重ねているだけあって、守りに回った時に落ち着いていたし、攻め手も捨てなかった。彼だけでなく、吉田、酒井、そして遠藤航も含めて、しなやかに撓む強さがあった。相手の攻撃を受け止め、吸収できるだけの懐の深さだ。

 守備の成熟は、これまでの五輪代表にはないものと言える。

 過去、1996年のアトランタ五輪から6回連続で五輪に出場した日本は、攻撃力の高さは見せても、その苛烈さと心中するような戦いがしばしばだった。攻守のバランスが崩れてしまい、受け身になった時の弱さを抱えていた。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る